1987年、サムスングループ会長就任演説をする故李健熙(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長 サムスン電子
サムスン一家が28日、故李健熙(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長の遺産に関連して12兆ウォン(約1兆1730億円)の相続税を納付すると発表した。韓国国内はもちろん世界的にも最大規模となる。李会長は世界最高の富豪でないものの相続税が多いのは、韓国の相続税率が世界最高水準であるからだ。相続税制改編をめぐる論争にまた火がついた理由だ。
相続税の大部分は故李会長が残した系列会社の株式(18兆9633億ウォン)に対するもので、最大株主割増率(20%)、最高相続税率(50%)、自主的な申告控除率(3%)を順に適用した相続税が11兆400億ウォンとなる。残りの相続税1兆ウォンほどは不動産などに関連している。論議を呼んでいる部分は最高相続税率50%だ。
経済協力開発機構(OECD)37加盟国の相続税の平均は26%。最高税率は日本(55%)に続いて韓国(50%)が2番目に高い。フランス(45%)、米国(40%)、ドイツ(30%)、英国(20%)よりも高い。オーストラリア、スウェーデン、ノルウェーなどの加盟国13カ国は相続税をなくした。北欧の代表的な福祉国家に挙げられるスウェーデンの場合、相続税が負担となったイケアが海外移転を推進すると2005年に相続税を廃止した。
ソウル市立大のチェ・ウォンソク税務学科教授は「企業の相続の場合、最大株主保有株を割増評価して最大60%まで懲罰的な相続税率が適用される」とし「過度な相続税が企業の経営権を脅かし、企業家精神を後退させることも考えられる」と指摘した。
相続税賦課の根拠をめぐる論争も絶えない。すでに所得税・法人税を納付し、死亡するまでに築いた財産に対して相続税まで賦課すれば「二重課税」になるという側面でだ。韓国経済研究院のイム・ドンウォン副研究委員は「相続税が高ければ所得税を低めるか、またはその逆であるべきだが、韓国は高い相続税率を維持しながら所得税の最高税率も高める傾向であり、税の負担が増えている」とし「先進国平均水準に相続税を低めるべきだ」と主張した。
相続税を支払うために危機に直面したり、家業の相続を放棄したりする事例もある。世界1位の爪切り製造会社スリーセブンは2008年、相続税の財源を確保するため全株を売却した後、赤字企業に転落した。世界1位コンドームメーカーのユニダス、国内トップの密閉容器メーカーのロック&ロックもそれぞれ相続税の納付で危機を迎え、2017年に私募ファンドに経営権を譲渡した。
反論もある。憲法第119条で「適正な所得分配維持」を国家の義務と規定しただけに、相続税を賦課して富の世襲・集中を防ぐべきという趣旨でだ。しかも相続税納付者は全体人口の0.01%水準にすぎない。各種事由で控除を受ける場合も多く、実効税率は15%前後にすぎないという理由もある。
高麗大のキム・ウチャン経営大教授(経済改革研究所長)は「相続税の最高税率区間に該当する人は全体の相続人のごく一部にすぎない」とし「貧富の差が広がる状況で不労所得、富の相続に対する税率を低める場合、階層移動を難しくし、むしろ経済の活力を落とすこともある」と指摘した。
代案として「資本利得税」の導入が挙がっている。家業継承時点には相続税を課税せず、株式・債券・不動産など資産を売却するたびに所得に対して課税するというものだ。譲渡差益が発生した場合に限り課税し、租税の公平性を守るという趣旨がある。相続税を廃止した国は資本利得税に変更したケースが多い。崇実大のチョン・ギュアン会計学科教授は「短期的には相続税率の引き下げと分納期限の延長を、長期的には資本利得税の導入を検討すべき」と述べた。
政府も相続税全般に関する研究に入った。ただ、国民の共感形成が前提になってこそ相続税率を引き下げることができると一線を画した。洪楠基(ホン・ナムギ)首相職務代行兼副首相兼企画財政部長官は27日の記者懇談会で、「相続税率の引き下げを検討しているのか」という質問に対し、「相続税が高いという指摘があるが、現在のところ別途に税率引き下げは検討していない」と答えた。