サルマン・ラシュディ氏(2008年撮影、ロイター)
【ニューヨーク=寺口亮一】イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱しているとして反発が広がった小説「悪魔の詩」の著者で、インド出身の英作家サルマン・ラシュディ氏(75)が12日、米ニューヨーク州で刃物を持った男に襲われ、首などを刺された。州警察が発表した。
【動画】ラシュディ氏が刺され搬送、容疑の男はその場で拘束
AP通信は代理人の話として、ラシュディ氏は搬送先の病院で手術を受け、人工呼吸器を装着していると報じた。片方の目を失明する恐れがあり、腕や肝臓も損傷しているという。
ラシュディ氏は同州ショトーカの教育施設で講演しようとしていた際、男に襲撃された。司会役の男性(73)も顔に軽いけがをした。男は、会場を警備していた警察官に取り押さえられた。
州警察によると、男はニュージャージー州に住むハディ・マタール容疑者(24)。単独犯とみられ、動機は不明だ。AP通信によると、マタール容疑者は中東レバノンから移住した両親の間に米国で生まれた。米NBCニュースは捜査関係者の情報として、本人のソーシャルメディアを分析したところ、「イスラム教シーア派の過激主義やイランの軍事組織『革命防衛隊』に共感を抱いていたことがわかった」と報じた。
1988年出版の「悪魔の詩」はイスラム諸国で発禁処分となり、イラン革命の指導者ホメイニ師は89年、ラシュディ氏に「死刑」を宣告。イランの宗教団体は懸賞金330万ドルをかけた。
ラシュディ氏は英国の治安機関が約10年にわたり、保護していた。その後、ニューヨークに移り、2002年以降は警護をつけず生活していたという。
日本では1991年、「悪魔の詩」を日本語に翻訳した筑波大助教授の五十嵐一さん(当時44歳)が何者かに殺害された。容疑者が特定されないまま2006年に時効を迎えた。