この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?
なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……
注目の新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。
(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
変化4 正規化が進む若年労働市場
過去、社会を大きく揺るがした非正規雇用問題。1990年代後半から2000年代にかけて、自らの意思に反して非正規雇用という働き方を余儀なくされた労働者が多数発生した。しかし、現代の状況は過去とは打って変わっている。非正規雇用という働き方は、もはや正規の職がないから選ぶ仕事ではなくなっているのである。
正規雇用者が増え、不本意非正規が減る
就業形態別の就業者数の推移を確認してみよう(図表1-13)。正規雇用者数は1997年の3812万人でピークをつけたあとに減少が続き、正規雇用者数が最も少なかった2014年には3288万人まで減った。しかし、その後は増加に転じ、足元の2023年は3609万人まで増えている。
非正規雇用者は過去からずっと右肩上がりで増加してきたが、近年ではやや減少傾向に転じている。非正規雇用者数は2019年に2173万人で過去最高を記録、その後2023年は2112万人と若干減っている。結果として、非正規雇用者比率は2019年の38.2%から2023年には36.9%に低下している。
自営業者も含め、過去から現在に至るまでの就業形態の構成を概観してみると、1990年代後半以降は、自営業者と正規雇用者が減少し、その代わりに非正規雇用者が増える形で就業者数が保たれるという構図がずっと続いてきた。しかし、2010年代半ば以降、傾向は明らかに変わっている。自営業者の減少傾向は変わらないものの、非正規雇用よりも正規雇用者の増加傾向が強くなっているのである。
2010年代半ば以降は企業における雇用者の構成比率が変わりつつあるのと同時に、雇用の中身も変わってきている。
総務省「労働力調査」では、非正規雇用者に対して、非正規雇用についた理由を尋ねている。図表1-14は理由別の非正規雇用者の推移を表したものであるが、その構成比率はこの10年間で大きく変わってきている。
「正規の職員・従業員の仕事がないから」非正規雇用の仕事についたという人の比率は調査開始時の2013年の17.9%から2023年には9.2%へと減少している。自分の意思に反して非正規雇用で働く者の数は大きく減少しているのである。
非正規雇用という働き方は、分類上同一の非正規雇用であっても、その内実は多様である。現代においては、女性や高齢者を中心に正社員としてフルタイムで働くよりも、短時間の仕事で働きたいと考える人は多い。家計上それでも問題がないのであれば、非正規雇用という働き方を積極的に選ぶというのは家計の合理的な選択である。一方、本来は正社員として働きたいのに、働き口がないから非正規にやむを得ずつかざるを得ないという人が増えることは問題である。
こうした観点で現在の非正規雇用者の労働市場を概観すれば、不本意非正規が急速に減少しつつ、それと同時に女性や高齢者など自らの意思で短い労働時間で働きたい人が増えているという状況が近年の潮流であることは明らかだ。
過去、日本の労働市場は労働力の買い手に有利な環境が長く続いてきたことから、企業は賃金単価の低い非正規雇用者を大量に活用する戦略を取ってきた。そして、その結果として労働力の売り手である労働者の一定数は、不本意にも非正規雇用として働かざるを得ない状況に追い込まれた。
こうした過去から振り返ると、足元の労働市場の環境は明らかに変化していることがわかるのである。
つづく「一番賃金が上がっているのは誰か…意外と知らない、正社員と非正規の「賃金格差の実態」」では、正規雇用者よりも非正規雇用者の方が賃金上昇のスピードが速いことについて掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)