台風19号や21号に伴う記録的な大雨に見舞われた被災地で、災害廃棄物(災害ごみ)の処理が問題となっている。環境省によると、災害ごみは昨年の西日本豪雨で出た約190万トンを上回る数百万トンに上るとみられ、処理完了までに2年以上かかる見込み。浸水で焼却施設が使えなくなったり仮置き場が満杯になるなどの問題も発生しており、国は県境などをまたぐ「広域処理」を加速させる方針だ。(吉原実、大渡美咲)
布団やテレビ、畳、たんす…。阿武隈(あぶくま)川の氾濫で大規模な浸水被害を受けた福島県郡山市の水門町地区には大量の災害ごみが一時、数十メートルにわたって道路沿いに積み上がった。
同地区に住む伊藤堯信(ぎょうしん)さん(84)は昭和61年の「8・5水害」を教訓に自宅の基礎部分を1・5メートルかさ上げして水害対策をとっていたが、今回の水害で1・4メートルも床上浸水。1階の家具の大半が水につかり「水を吸った畳を1枚運ぶのに6人がかりだった」と、疲労感をにじませた。
郡山市では、市内に2カ所ある処理施設のうち1カ所が浸水で使用不能に。現在の1日あたりの処理能力は約300トンで、災害ごみどころか、生活ごみ(1日平均約380トン)の処理もままならない。車が冠水し仮置き場までごみを運べない被災者も少なくなく、担当者は「持ち込まれる災害ごみは今後も増えるだろう」と漏らす。
福島県によると、県内の災害ごみの仮置き場は今後開設予定の場所も含めて22市町村で計61カ所だが、許容量が限界を迎えたなどして6日現在で9カ所が閉鎖された。千曲(ちくま)川が氾濫した長野県では可燃ごみ焼却施設「ながの環境エネルギーセンター」(長野市)が受け入れ可能な限界量に近づいているとして、長野、須坂両市の仮置き場からの搬入を休止している。
市町村単位で処理するのが原則のごみを無断で地域外から持ち込み、仮置き場に投棄するケースも目立つ。宮城県大郷町は許可した住民以外はごみ集積場への立ち入りを禁止。同県丸森町も、他地域からの搬入を防ぐため、現場での身分確認を義務付けている。
一方で、ごみ処理をめぐっては過去の大災害で県境や地域をまたぐ「広域処理」も行われてきた。約2千万トンの災害ごみが発生した23年の東日本大震災では東京都や大阪府などが処理を受け入れ、福島県の一部を除き約3年間で処理を終えた。28年の熊本地震でも県外施設の協力などで約300万トンの災害ごみを2年かけて処理。昨年の西日本豪雨でも行われている。
環境省は今回のごみ処理でも、広域処理を含めた対応をとる構え。小泉進次郎環境相は、長野県で出た災害ごみの県外処理に関し、現在の富山県に加えて愛知県と三重県でも実施できる見通しになったと明らかにした。仙台市も被害が大きかった宮城県丸森町の災害ごみを受け入れると発表した。ただ、それでも被害が大きかったこうした地域では、生活圏からのごみ撤去完了には年内いっぱいかかる見込みという。