3年2カ月に亘ってロシアとの戦争が続くウクライナ。ジャーナリストで大和大学社会学部教授の佐々木正明氏は、2月27日から3月10日まで同地を訪れ、その実態を取材した。【前編】では、連日続く都市への空爆と、街に鳴り響く空襲警報によって、市民が重度のPTSDに苦しみ、子供の失語症や、ストレスから白髪になる8歳児のケースまで報告されていることを詳報した。【後編】では、そのウクライナの国民が、戦争を指揮するゼレンスキー大統領にどのような感情を抱いているか、テレビや新聞が伝えない本音をレポートする。
【佐々木正明/ジャーナリスト、大和大学社会学部教授】
【前後編の後編】
【写真】涙を誘う、犠牲となった兵士の遺影…ウクライナ国旗が立ち並ぶ戦死兵たちの墓所
***
聞こえてくるのは悪口ばかり
一向に改善しない状況に、人々はもはやどうすれば良いのか、どこに助けを求めればいいのかわからなくなっている。ロシア軍への怒りや憎しみに加え、絶望感と虚無感が広がっている。2年前の2023年3月にキーウを訪れた際は、反転攻勢によって領土を奪還するという強い意気込みが感じられ、それを率いるゼレンスキー大統領への国民の信頼も非常に厚かった。
しかし、今回の滞在では、ゼレンスキー大統領に対する明らかな批判の声も耳にした。
50代の女性タクシー運転手は憤慨していた。
「ゼレンスキー大統領の支持率はマイナス100%だ。彼は何の約束も守らない嘘つきだ。軍にも嘘をついた。彼の周りには汚職をする人間ばかりだ。早く辞任してほしい」
40代の男性会社員は嘆いた。
「ゼレンスキー氏は開戦前も逃げなくてもいいと言っていた。それを信じた。だけど、ロシア軍が侵攻してきた。生活は全く良くならない。物価は上がり続ける一方で、将来への見通しは暗い。ゼレンスキー大統領は戦争が始まるまで何の準備もしなかった。私の周りでは、誰も彼を信頼していない。聞こえてくるのは悪口ばかりだ」
内憂外患の危機
ウクライナ政界では、野党を中心に政権批判が強まっている。特に、ウクライナの長年の課題である汚職は戦時下でも深刻であり、責任を追及する声が高まっている。ウクライナ人男性の兵役忌避問題も深刻化しており、ゼレンスキー大統領は内憂外患の状況に直面している。
ウクライナでは戒厳令が敷かれ、大統領選挙は延期されている。有力な調査機関であるキーウ国際社会学研究所(KIIS)の世論調査によると、直近の調査でもゼレンスキー大統領を信頼すると回答した人は67%に達しているが、もし今大統領選挙が行われたとしても、ゼレンスキー大統領が圧勝できるとは限らないようだ。
元外交官の男性は、ゼレンスキー大統領の前任であるポロシェンコ元大統領に期待する声もあると述べる。
「ポロシェンコ氏は自ら首相となり、国民に人気が高いザルジニー元総司令官を大統領として擁立する構想もある。議会では主導権争いが続いている」