昨年夏にはスーパーの棚から一斉に姿を消し、今も価格が高止まりしたままのコメ。嘆いていても始まらないので、この国の「コメ政策」がどこへ向かおうとしているのかを知る、良い機会と捉えてはどうか。ノンフィクション作家・奥野修司氏による深層レポート。
【衝撃の光景】ポルシェの横をノロノロと…渋谷のど真ん中ではじまった農家による「トラクターの大行進」
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「昨年11月、財務省が出した建議には、今後、食料自給率の確保は求めないと書かれています。食料が足りなければアメリカやカナダなど同盟国から輸入するのだから安全保障上の問題はないという説明です。その元になるのが改正した食料・農業・農村基本法ですから、農林水産省も財務省もみなさんを守るために存在していないんですよ」
2月18日、日本の農と食を守ろうと開かれた「令和の百姓一揆」院内集会でこう語ったのは、衆議院議員で農業経済を知悉(ちしつ)した福島伸享氏である。発言中の「建議」とは、各省庁の予算編成にあたって財務省の考えをまとめた意見書で、翌年度の予算編成の指針になるといわれる。
昨年の米不足から高騰した米価がいまも収まっていないのは、この国の食料システムが極めて脆弱であることを示している。そんな状況の背後で、実は日本の農業や食料事情を大きく変えかねない法改正が行われていた。福島氏はそのことを述べたのである。
農水省と財務省、双方の利害が一致
昨年6月、日本の農業政策の計画を示した食料・農業・農村基本法の改正法(以下、改正基本法)が施行された。この国が目指す農政の理念を掲げたものだ。そしてこれを政策として具体化させるのが食料・農業・農村基本計画(以下、基本計画)である。いわば政府のアクションプログラムだ。計画を実行するには予算が必要だが、この配分を決定するのが財務省の「建議」である。
「食」は基本的人権の基礎になるものだ。日本のように食料自給率(以下、自給率)が低い国は、自給率を高めることが重要だと思うのだが、どうも政府は自給率の向上に努力をするよりも、足りなければ輸入すればいいという方向にシフトしようとしている。なぜ自給率向上への努力をやめるのだろう。福島氏は言う。
「自給率を上げるためには全体の農地を守らなければいけないのです。そのためにEUやアメリカなどは補助金を出して農地を維持しています。逆に自給率向上を目指さないなら、効率の悪い農地は切り捨てて、作りやすい農地で作ればいいとなります。その場合、財務省は予算が減り、農水省は自給率向上という難しい政策目標がなくなる。双方の利害が一致したのです。今後は農地が減らされる方向になるでしょうね」