日本の郵便事業が転換していく大きな契機になるのだろうか。昨年来、自民党にとって懸案だった郵政民営化関連法の改正案が自民党の総務会で了承された。しかしその実態は自民党とベッタリの集票組織・全国郵便局長会への配慮から、日本郵便に対し、事実上の公的資金を投入する、というもの。再国営化への布石とも囁かれる中、日本郵政トップの責任は――。
なんとも歯切れの悪いインタビューだった。
5月8日に日経新聞電子版に公開された日本郵政・増田寛也社長を取材した記事である。6月の退任を前にマスコミの取材に応じておこうということだったのかもしれないが、何を伝えたいのか、がはっきりと伝わってはこなかった。
増田氏は記事中で日本郵政について、
「株主、資本市場とだけ向き合う一般企業と違う。力を持つステークホルダーも多く、特に国会議員との結びつきが強い」
とし、
「ガバナンスは(権限が)分散すると不全に陥る」
と語った。今回の改正案ついて、
「民営化を決めた頃とは時代が違う」
としつつも、こう言う。
「郵便局の本来業務であれば、独力で稼ぐべきだ。都心の郵便局を含めて全国一律に使うのはおかしい」
インタビューでは増田氏の発言として全国郵便局長会(全特)に言及することはなかった。記事中の地の文でわずかに触れられている限りだ。
国営の方向に戻していく布石
今回の改正案のポイントは大きくわけて二つある。
政治部デスクが解説する。
「一つ目は、日本郵便への支援を明確にしたことです。日本郵政から受け取る配当金などから国が日本郵便に対し交付金という形で財政支援を行います。その額、年間650億円ほどと見られています。二つ目は民営化に向けたゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式売却について、『できるだけ早期に売却』から『当面の間、3分の1超を保持』としたことです。金融2社に関して、当面の間完全民営化は見送り、収益が悪化する郵便事業を2社が支える構図が強化された格好になります」
5月に発表された昨年度の日本郵政グループの決算によれば、グループ全体の経常収益11兆4683億円に対し、日本郵便の「郵便・物流事業」は383億円の営業赤字だった。日本郵便は全体としても赤字に転落している。同社が扱う郵便物は年々減少し、収益は悪化するばかりだ。
「郵政民営化関連法の改正案の大きな問題は日本郵政を国営に戻していくための布石と見られてしまうことです。郵便局を今後どうしていくのか、自民党内ではもう一度国営の方向に戻していこう、という思惑が長い間あった。今回の改正案はその一つの結果と言えるでしょう」
とは千葉商科大学教授で経済ジャーナリストの磯山友幸氏(企業統治論)。
「金融を含めて今ではネットでの取引が可能な中、拠点としての郵便局は減らしていくべきだというのが世界の常識です。しかし日本の場合、郵便局という拠点を残すこと自体が目的化してきました。ですから郵便局の数も民営化後、ほとんど減っていないのです」(同)
全国の郵便局は現在、直営郵便局と簡易郵便局をあわせ2万4000ほどある。これは2007年の民営化時と比べてもほとんど横ばいの数字だ。
現状この改正案について、自民党と立憲民主党による折衝が行われており、今国会での成立が不透明な状況が続いている。
なぜ全国の郵便局数は15年以上にわたり、維持されてきたのか。有料記事『全国2万4000の郵便局の合理化進まず「増田寛也社長」の責任は 郵政民営化法改正でうごめく「日本郵政」「全特」「郵活連」負のトライアングル』では、日本の郵政政策の背後にある3つの組織の関係性について詳報している。
デイリー新潮編集部
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