【ワシントン=阿部真司、ロサンゼルス=後藤香代】トランプ米大統領がカリフォルニア州ロサンゼルスに州兵を派遣したのは、自身の指揮下でデモ隊を排除し、リーダーシップをアピールする狙いがあるとみられる。州知事の要請なき州兵派遣という60年ぶりの異例の事態に、民主党のギャビン・ニューサム州知事は政権を提訴すると表明するなど猛反発している。
トランプ氏は8日、記者団に「我が国と国民に危険が及ぶと判断した場合、法と秩序の維持に向け強力な措置をとる」と州兵派遣を正当化し、SNSではニューサム氏を「無能」呼ばわりした。
連邦法では、連邦政府に対する反乱があった場合などに、大統領が州兵を招集できると定めているが、命令は各州の知事を通して発令されるとの規定がある。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、大統領が知事の要請を受けずに州兵を動員したのは、公民権運動のデモ参加者を守るため、アラバマ州に部隊が派遣された1965年以来だ。
トランプ氏は第1次政権時の2020年にも、警官による黒人男性暴行死事件の抗議デモに軍投入を検討したが、軍幹部の反対で見送った経緯がある。国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官は8日、米CBSの番組で「20年の出来事を繰り返させない」と述べた。
今回の抗議デモが広がるきっかけとなった政権の不法移民対策は、他の政策と比べて高い評価を得ている。CBSが8日に発表した世論調査で、不法移民対策の強化を支持した人は54%に上り、不支持の46%を上回った。トランプ氏は州兵派遣についても国民の支持を得られると考えたようだ。
一方、ニューサム氏が事態収拾のためにロサンゼルス入りした8日午後、地元警察は非殺傷兵器を使ったデモ隊排除に乗りだし、参加者を次々と逮捕した。ニューサム氏はその後、SNSで「地元警察は(州兵の)支援を必要としていない」と強調し、米MSNBCのインタビューでは「大統領による州兵の指揮権掌握は違法だ」として法廷闘争に持ち込む考えを表明した。
米国民の注目度が高い不法移民対策を巡り、将来の大統領候補と目されるニューサム氏との緊張が高まる状況は、トランプ氏を利するとの見方もある。ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏には、デモ拡大を招いたとしてニューサム氏の不手際を強調し、民主党の支持基盤を切り崩す狙いがあるとの見方を示した。