米国を代表する国際情勢ストラテジスト、ジョージ・フリードマン氏は、来るべき米連邦政府の大改革を数年前に既に予見していました。彼の著書『2020-2030 アメリカ大分断:危機の地政学』の中で示唆された、およそ2025年頃から始まる新たな「制度的サイクル」への移行は、現在の米国政治が直面している変革と深く関連しています。この度、ニューヨーク在住ジャーナリストの肥田美佐子氏がフリードマン氏に独占インタビューを行い、その予測の根拠と、変革期におけるトランプ大統領の役割について詳細を伺いました。この「嵐」とも形容される時期は、米国史における必然であり、時代遅れの制度を再定義する機会であるとフリードマン氏は論じます。
米国連邦政府の「制度的サイクル」変革を示す木槌と星条旗
なぜ連邦政府改革は予測可能だったのか?
フリードマン氏は、1996年に米インテリジェンス企業「ストラトフォー」を創業し、「影のCIA」とも称されました。現在はバーチャル・シンクタンク「ジオポリティカル・フューチャーズ」の会長として、鋭い世界情勢分析を提供しています。彼の米国政府改革予測が的中したことについて、単なる幸運だったと述べつつも、米国史を丹念に紐解けば、周期的に訪れる劇的な変化の時期が見て取れると解説しました。
米国史には約80年ごとに訪れる「制度的サイクル」と、約50年ごとに訪れる「社会経済的サイクル」が存在します。
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制度的サイクル:
- 第1サイクル: 1787年 合衆国憲法制定
- 第2サイクル: 1865年 南北戦争終結
- 第3サイクル: 1945年 第二次世界大戦終結
- 第4サイクル: 約2025年頃から移行期開始 (トランプ大統領の下で進行中)
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社会経済的サイクル:
- 第4サイクル: 1932年 世界恐慌さなか、フランクリン・ルーズベルト大統領当選
- 第5サイクル: 1980年 ロナルド・レーガン大統領当選
- 第6サイクル: 約2028〜2030年頃に開始
フリードマン氏は、約2025年頃に第4の制度的サイクルへの移行期が始まり、続く数年で第6の社会経済的サイクルが幕を開けるという、米国史上初めての両サイクルがほぼ同時に移り変わる時期に米国が直面していることを指摘しました。この同時期に訪れる大変革期は、「静けさの前の嵐」であり、米国は今まさにその真っただ中にいると表現しています。
「嵐」は米国の健全さの証
「嵐」は現状維持を望む勢力と変革を求める勢力の間の衝突であり、これには社会的・政治的な怒りや省庁間の対立がつきものだとフリードマン氏は語ります。過去の変革期、例えばルーズベルト大統領も連邦裁判所や議会と激しく対立し、独裁者呼ばわりされました。しかし、最終的にルーズベルト大統領は最も成功した変革者の一人として歴史に名を刻んでいます。
現在の米連邦政府の制度的構造は、もはや現代の現実、特に冷戦終結後の外交政策においては、大きく乖離してしまっているとフリードマン氏は主張します。「米国の終焉」を指摘する声もありますが、時代遅れの制度にしがみつくのではなく、それを果敢に変えていくことこそが、この国の本質であると彼は見ています。制度的サイクルと社会経済的サイクルの同時移行期を迎え、変革の「嵐」はまだ始まったばかりなのです。
トランプ大統領は「歴史のツール」
フリードマン氏は、自身が描いた歴史的シナリオの主役がトランプ大統領になるとは予想していなかったと率直に認めました。しかし、誰が変革を担うかよりも重要なのは、米連邦制度が機能不全に陥り、変革が不可避だったという事実です。
彼は、人々は個々の政治家を過度に重要視しがちだが、政治家を動かすのは個人の意思ではなく「歴史」であると強調します。人間が歴史をコントロールするのではなく、歴史が人間を動かすのです。もしトランプ氏が変革を行わなかったとしても、歴史の流れの中で他の誰かがその役割を担ったはずです。サイクルの節目に大統領となった人物は、進化する現実に合わせて新たな制度を築くことになります。
トランプ大統領について、フリードマン氏は個人的な好悪を超えて、「歴史のツール」として見ていると述べました。彼には変革の時代に求められる特定の個性、すなわち「強さ」が備わっていると評価します。変革期の大統領は既得権益を持つ勢力から怪物扱いされ、嫌われるのが常ですが、トランプ氏は嫌われることを恐れません。強靭で、いかなる「制度」にも敬意を払わず、体制派の人々を恐れさせる彼の存在こそが、旧サイクルを断ち切るために必要な唯一の人物像であると彼は分析しています。米国の有権者は、変革期にふさわしい大統領を選んだのだという見方を示しました。
フリードマン氏は、政治家は時代の要求に応じる形で自己を作り変える「俳優」のような存在だと例えました。俳優自身に興味はないが、俳優が演じなければならない「演技」、すなわち「改革」には関心がある。これが彼のトランプ大統領に対する姿勢です。
結論
ジョージ・フリードマン氏の分析は、現在の米国が直面する政治的混乱が、米国史における周期的な「制度的サイクル」と「社会経済的サイクル」の移行期に位置づけられる必然的な現象であることを示唆しています。彼によれば、時代遅れの制度を変革するこの「嵐」は、米国の健全さの証であり、フランクリン・ルーズベルト大統領時代のような劇的な変化を経て、新たな制度が構築される過程にあります。そして、トランプ大統領は、その変革を推進する上で必要な特定の個性を持つ「歴史のツール」としてその役割を担っていると結論付けられます。この分析は、米国政治の現状を理解する上で、歴史的・構造的な視点から重要な洞察を提供しています。