兵庫県知事の斎藤元彦氏(47)が行う定例記者会見において、記者からの質問に対し、決まったフレーズを繰り返すばかりで質疑応答が成立しない状況が続いている。この異様な光景について、元神戸新聞記者でノンフィクションライターの松本創氏は「こちらが何を聞いても、斎藤知事は決まったフレーズを繰り返すばかり。ちぐはぐな問答を延々とやっている感じ」だと語っている。
兵庫県政を揺るがす問題の経緯
昨年3月から1年以上にわたり、斎藤知事を巡る告発文書問題が続いている。兵庫県議会の百条委員会や県設置の第三者委員会は、知事らが行ったとされる“犯人捜し”が違法であると認定したものの、斎藤知事はこの認定を受け入れない姿勢を示している。
さらに、告発文書を作成した元県民局長の私的情報が外部に漏えいした問題に関する第三者委員会も、「情報漏えいは斎藤知事らの指示で行われた可能性が高い」と結論づけた。混迷を深める中、今年6月20日には、昨年11月の兵庫県知事選挙における公職選挙法違反容疑で、斎藤知事が神戸地検に書類送検される事態となった。
「橋下氏とは異なる異様さ」元記者が指摘する斎藤知事の会見スタイル
これまで数々の首長や政治家の記者会見を取材してきた松本氏は、斎藤知事の会見を、かつての橋下徹氏(大阪府知事・市長)と比較して分析する。松本氏は、「橋下さんも、詭弁や多弁を用いて“論点ずらし”をするという点においては“異様”な記者会見だったと言えます」と述べた上で、斎藤知事の場合はその対極にあると指摘する。「斎藤知事の場合は、詭弁や多弁の正反対で、ひたすら言葉が乏しい。何を聞かれても、『ご指摘は真摯に受け止める』『県政を前に進めるのが私の仕事』などと、お決まりのフレーズを繰り返し、記者の質問とかみあわない。それが“異様さ”を感じさせる一因です」。
定例記者会見で質問に答える兵庫県知事・斎藤元彦氏。告発文書や情報漏洩問題を巡り、発言が注目されている
第三者委員会報告と知事の矛盾した姿勢
元県民局長の私的情報漏えいについて、「知事や元副知事らの指示があった可能性が高い」と結論づけた第三者委員会の報告(5月27日)を受けた6月初旬の定例会見では、知事の関与を問う質問が相次いだ。しかし、斎藤知事は「指示はしていない」との回答を繰り返すばかりだった。記者が「それで説明が尽くせていると思うか」と問い詰めても、「これまでの認識どおり指示はしていません」「何度聞かれても同じ答え」と述べるのみ。松本氏は、県が設置した第三者委員会の結論を知事が受け入れない状況を疑問視し、「まともな説明もできず、県が設置した第三者委員会なのに、その結論を知事が受け入れないなら、設置した意味がありません」と批判する。
県は、第三者委員会の報告に基づき「知事らの指示があった」ことを前提として、情報漏えいした職員を3カ月の懲戒処分とした。松本氏は、「知事らの関与がなければ、最低でも6カ月の懲戒処分になっていたと聞いています。にもかかわらず、決裁権者である知事が自分の関与を認めないなんて、あきらかな矛盾です」と、県の対応と知事の主張の間に存在する矛盾点を指摘している。松本氏がこうした矛盾を会見で追及しても、知事は「記者さんの意見として受け止める」とかわすだけだったという。
百条委員会後、「わいせつ文書」発言とその波紋
斎藤知事の会見での発言傾向が明確に変わったのは今年3月以降だと松本氏は分析する。兵庫県議会の百条委員会は、パワハラ疑惑を「おおむね事実」と評価し、公益通報者捜しや懲戒処分といった初動対応にも「法律違反の可能性がある」と結論づけた。
この結果を受けて行われた3月5日の定例記者会見で、斎藤知事は「百条委員会の結論は重く受け止める」と述べる一方、「県の対応に問題はなかった」と繰り返した。さらに、公益通報の中身とは直接関係のない元県民局長のパソコン内容に言及し、「倫理上極めて不適切な、わいせつな文書を作成していた」と発言、再び告発者への攻撃とも取れる姿勢を見せた。
この「わいせつな文書」発言は多くの批判を浴びたが、その後斎藤知事はこの表現を使わなくなったものの、発言の撤回や謝罪は現在も行っていない。6月17日の定例会見でも、記者からこの発言を撤回しないのかと問われた斎藤知事は、「これまで申し上げた通り、対応として適切だったというふうに考えています」と、いつもの“テンプレ回答”を繰り返すにとどまった。