高市首相「台湾危機は存立危機事態」発言の波紋と外交戦略

高市早苗首相による「台湾危機が日本の『存立危機事態』に当たる」との発言が、国際社会で大きな波紋を広げています。この発言は、高市首相が台湾問題を自身の外交戦略の柱の一つと位置づけたいという意図を反映しているのかもしれませんが、そのタイミングが適切ではなかったとの見方が強まっています。高市首相とその支持者の意図と、国際社会、特に中国当局の受け止め方との間に、大きな隔たりが生じているのが現状です。

「存立危機事態」発言の背景と国際社会の反応

高市首相の発言は、米軍が台湾関係法に基づき部隊を派遣した場合、日米安全保障条約の枠組みで自衛隊が後方支援を行う状況を念頭に置いたものと推察されます。このため、さらに踏み込んだ安全保障法制の整備が国内で議論の焦点となっています。しかし、法的認定、事実認定、そして日米安保体制下での具体的な日米協力のいずれについても、国内における議論は統一された見解に至っていません。この発言は、米国に向けたメッセージであったと見られますが、現時点で米国が中国との本格的な衝突を望んでいるとは考えにくく、日本は対外的に一層慎重な姿勢を保つべきだという意見も多く聞かれます。

高市外交の初期評価と日米関係

高市政権の外交は、発足直後の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議における中国・韓国首脳との会談、さらにはトランプ大統領の来日など、華々しいスタートを切りました。国内外の注目が集まる中、「ウルトラ・ナショナリスト」と揶揄されるその政治的傾向は海外でも広く報じられましたが、実際のところ、習近平国家主席や李在明大統領との首脳会談では、慎重かつ無難な対応に終始したと評価されています。

他方、トランプ大統領とは日米軍事同盟の抑止力強化を確認し、防衛費増強を約束しました。その後の小泉進次郎防衛大臣とヘグセス米国防長官との会談では、米国防長官が日本の新政権の姿勢を「うれしく思う」と述べ、防衛費の目標規模については「日本に一切要求したことはない」と語るほど、日本の自発性を高く評価しました。

高市首相、ASEAN首脳会談など外交活動の様子高市首相、ASEAN首脳会談など外交活動の様子

トランプ大統領との対談における高市首相のパフォーマンスについては賛否両論がありましたが、笑顔で明るさを振りまく戦術は、トランプ大統領にも概ね好意的に受け止められたようです。何が飛び出すかわからないトランプ大統領を前に周囲は緊張していましたが、新首相の日米関係における出だしは、周囲に好印象を与えたことも確かです。

「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」への問いかけ

米国に好印象を与え、嫌われず、緊密な同盟国として米国の対中韓・アジア政策を日本の外交に巧みに組み込んでいくこと。これが日本の外交だと考える人が大半でしょう。そう捉えるならば、高市外交は安堵の旅立ちに成功したと言えるかもしれません。台湾有事に関する発言の背景には、このような心理があったのではないかと筆者は見ています。

しかし、この外交姿勢が、高市首相が掲げる「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」という目標にどう結びつくのでしょうか。そして、戦後日本が目指してきた自主外交の中で、一体どのような意味を持つのか。この根本的な問いが、今後の高市外交の真価を問うことになるでしょう。

Source: Yahoo! News Japan