イスラエル入植者、自国軍基地を襲撃:極右閣僚さえ非難する異例の事態

イスラエルが占領するパレスチナ自治区ヨルダン川西岸で、イスラエル人入植者がイスラエル軍基地を襲撃するという異例の事態が発生しました。この攻撃は、政治的な立場を超えてあらゆる方面から強く非難され、通常は入植運動を支持するイスラエルの極右閣僚たちからも批判の声が上がりました。与党連合内で最も強硬派と見なされるベツァレル・スモトリッチ財務相やイタマル・ベングビール国家治安相でさえ、加害者の責任追及を求めています。

襲撃の詳細と背景

イスラエル軍の発表によると、ヨルダン川西岸中部にある同軍の基地が6月29日夜、数十人の「民間人」によって襲撃されました。この襲撃により、軍用車両や治安関連施設が破壊される被害が出ました。イスラエルメディアの報道によれば、基地を襲撃したのはイスラエル人入植者であり、彼らはイスラエル軍ベンヤミン地域旅団の団長を「裏切り者」と罵り、攻撃を仕掛けたとのことです。

この軍基地襲撃は、6月27日に発生した入植者6人の逮捕に対する報復であると広く見られています。この時も、ベンヤミン地域旅団は、パレスチナ人の村カフルマリク近くの軍事封鎖区域に立ち入ろうとした入植者らを阻止しようとした際、攻撃を受けていました。

強硬派を含む広範な非難

今回の事件に対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、先の攻撃と合わせて両方の事案を非難しました。「法を順守する国は、暴力行為と無政府状態を容認することはできない」と述べ、厳正な対処の姿勢を示しました。

遅れてではあるものの、イタマル・ベングビール国家治安相も非難の声を上げました。自身のX(旧ツイッター)アカウントに、「イスラエルの治安部隊と治安施設、そして私たちの子どもであり、兄弟であり、守護者でもある兵士らに危害を加えることは、越えてはならない一線を越えている。最大限の厳しさで対応しなければならない」と投稿しました。弁護士でもあるベングビール氏は、政界入りする前は、ヨルダン川西岸でパレスチナ人を襲撃したとして刑事告訴された入植者を弁護することで知られていました。

ベツァレル・スモトリッチ財務相もまた、X上で非難を表明しました。「(イスラエルの)兵士と私たちが愛する警察に対する暴力、そして財産の破壊は容認できない」と記し、入植者による自国軍への暴力行為を明確に否定しました。

ヨルダン川西岸ヘブロンの旧市街で警戒に当たるイスラエル兵とイスラエル入植者。この地域では入植者とパレスチナ住民、そしてイスラエル軍の間で緊張が続いている。(2025年6月28日撮影)ヨルダン川西岸ヘブロンの旧市街で警戒に当たるイスラエル兵とイスラエル入植者。この地域では入植者とパレスチナ住民、そしてイスラエル軍の間で緊張が続いている。(2025年6月28日撮影)

異例の事態とその分析

ヨルダン川西岸では、イスラエル人入植者によるパレスチナ人襲撃は日常的に発生しています。しかし、イスラエル軍の拠点に対する攻撃は非常に異例です。

エルサレム・ヘブライ大学犯罪学部のサイモン・ペリー准教授(安全保障)はAFPの取材に対し、今回の事件は「極右勢力にとっても、今回はやりすぎだった」「暴徒の行動は度を越していた」との見解を示しました。

一方、外交問題の専門家で、イスラエル政治のベテラン評論家でもあるニムロッド・ゴレン氏は、この襲撃に対する極右勢力の憤りは、単なる「リップサービス」にすぎないと指摘しています。

「ヒルトップ・ユース」とは

ペリー、ゴレン両氏によると、軍基地を襲撃した暴徒は「ヒルトップ・ユース」と呼ばれる非公式な運動に参加している可能性が高いとのことです。この運動は、パレスチナ人住民を立ち退かせ、イスラエル政府の承認なしにヨルダン川西岸に入植地を建設することを目的としています。この運動は、入植地建設事業のイデオロギー的な支柱である宗教シオニズム運動の中でも、特に過激派とされています。今回のイスラエル軍基地襲撃は、このグループの過激な性質と、ヨルダン川西岸における複雑な緊張関係を改めて浮き彫りにしました。

Source: AFPBB News