中国のロボット業界において、特に「ヒト型ロボット」の開発エンジニアに対する求人が記録的な増加を見せている。人材サービス大手である智聯招聘が2025年6月16日に発表した最新のレポートによると、2025年1月から5月までのロボット業界全体の求人件数は前年同期比で6%の増加にとどまった。しかし、同時期のヒト型ロボット分野における求人件数は、前年同期と比較して5倍以上に急増している。
北京で開催されたヒト型ロボットのマラソン大会、中国のロボット開発競争を象徴
求人爆増の実態
智聯招聘のレポートが示すように、ヒト型ロボットの求人需要は特定の技術分野で際立っている。メーカーが最も強く求めているのは、ソフトウェア関連のアルゴリズム系エンジニアと、物理的な設計を担う機械構造系エンジニアだ。
この求人の急増は、ヒト型ロボットが製造業や、高齢者ケアなどの人手不足が深刻な分野で高い潜在的ニーズを持つと見込まれていることに起因する。メーカー各社がこれらの需要に応えるべく開発競争を加速させており、それに伴って関連エンジニアの採用が急務となっている。
需要増加の背景
一般的な産業用ロボットとは異なり、ヒト型ロボットは人間との自然な双方向コミュニケーション能力や、複雑な環境に適応できる柔軟な運動能力が求められる。これらの高度な機能を実現する上で鍵となるのが、洗練されたアルゴリズムと精密な機械構造の設計である。このため、アルゴリズム系エンジニアと機械構造系エンジニアの需要が突出しているのだ。
智聯招聘のレポートによれば、2025年1月から5月までの期間におけるヒト型ロボットのアルゴリズム系エンジニアの求人件数は前年同期比約5.8倍、機械構造系エンジニアの求人件数は同約3.4倍と、他の分野を大きく上回る増加率を示している。
賃金の上昇と地域別の動向
採用競争の激化は、提示される賃金水準にも影響を与えている。ヒト型ロボットのアルゴリズム系エンジニアに対する募集企業のオファーは、月額平均で3万1512元(約63万円)に達し、機械構造系エンジニアも同2万2264元(約45万円)となっている。これらの金額は、ロボット業界全体のエンジニア平均水準を大幅に上回っている。
中国の大手ヒト型ロボット開発企業、優必選科技の人材募集ページ。高まる求人需要を示す
地域別に見ると、アルゴリズム系エンジニアの求人件数は北京市、広東省深圳市、上海市といった大都市が上位を占める。北京と上海ではIT・インターネット関連企業が、深圳では自動車関連企業の採用意欲が高い傾向にある。上位3都市以外では、ロボット産業が近年急速に発展している江蘇省南京市が4位、湖南省長沙市が5位、浙江省杭州市が6位となっており、技術開発拠点の分散化も進んでいることがうかがえる。
まとめ
中国におけるヒト型ロボット開発は、製造業やサービス分野での潜在的な人手不足解消への期待を背景に、急速に加速している。特にアルゴリズム系と機械構造系のエンジニアに対する求人の爆発的な増加と賃金の上昇は、この分野の重要性と将来性を示唆している。これらのトレンドは、中国がロボット技術、特にヒト型ロボット分野で世界をリードしようとする強い意志を反映していると言えるだろう。
参考文献
- 財新 Biz&Tech / 財新記者:馬世雯、湯涵鈺 (原文配信 6月17日)
- 智聯招聘 レポート (2025年6月16日発表)