政党要件を満たす全党が参戦する今回の参院選東京選挙区において、国民民主党は当初、好調な支持率を背景に強気の2候補擁立に踏み切りました。しかし、間もなく追い風は弱まり、その後の誤算が続き、党の現状を象徴するかのように不透明感の漂う中での戦いを強いられています。
国民民主党代表の玉木雄一郎氏は公示日の3日、有楽町で声をからし、「2人も通らないと言われるが、そんなことはない。2議席取るぐらいじゃないと日本の政治は変わらない」と訴え、当初の自信を覗かせました。昨秋の衆院選で議席を4倍増の28議席へと躍進させ、今春まで報道各社の世論調査で立憲民主党を上回る支持率を記録していた勢いがその背景にありました。
4月下旬には、非改選の欠員補充を含め7人が選ばれる東京選挙区に、ともに新人の元アナウンサー牛田茉友氏と元会社員奥村祥大氏を擁立すると発表しました。まだ波に乗っていたこの時期、党幹部は「2人当選は可能」と自信を見せていました。
参院選東京選挙区に立候補した各党候補者の選挙ポスターが貼られた掲示板
ところが、過去の不倫疑惑がくすぶる元衆院議員山尾志桜里氏を比例代表に擁立する方針が報じられると、国民民主党の支持率は急落しました。さらに、政府備蓄米を「動物の餌」と表現した玉木代表の失言も重なり、逆風が強まります。6月に入り山尾氏の公認は見送ったものの、かつての勢いは戻っていません。牛田氏らは街頭活動で、山尾氏を巡る騒動について有権者から非難の言葉を何度か浴びたといいます。ビラを100枚配っても、受け取ってもらえるのはわずか5枚ほど。6月の都議選期間中、党の候補に付いて都内を駆け回った際も、手応えは薄かったようです。陣営幹部は「こんなはずではなかった」とため息を漏らしています。
国民民主党の失速を尻目に支持率を伸ばしたのは、ダークホースとして注目される参政党です。3日、代表の神谷宗幣氏が銀座で「日本人ファーストだ」と力説すると、集まった聴衆からは「そうだ」と歓声が上がりました。歌手で新人のさや氏はSNSを重視した戦術を展開しており、これは国民民主党との共通点とも言えます。両党は支持層も一定程度重なる分析があります。参政党は先の都議選で3人が当選し、初めて議席を獲得しました。これは少し前までの国民民主党への票が流れた結果だと分析されており、国民民主党の関係者は「ダークホースが登場した」と表情をこわばらせています。
国民民主党の拡大路線は、国政選挙で連携してきた地域政党「都民ファーストの会」とのあつれきも生みました。都議選では都民ファーストの会の反発を押し切る形で公認・推薦候補を積極的に擁立。その結果として一部の現職にまで落選者が出た、というのが都民ファーストの会の主張です。都民ファーストの会は今回の東京選挙区で特定候補を支援しないことを決めました。関係者は「激しく争った。もう応援したくないと思う人が多い」と明かしており、牛田氏と奥村氏の事務所には、都民ファーストの会都議による「為書(ためがき)」(「祈必勝」と大書するポスター)が見られない状況です。
最大の支持組織である連合との関係も微妙な状況です。立憲民主党との連携に背を向ける玉木代表らの言動に対し、「てんぐになっている」と憤る連合幹部は少なくありません。産業別労働組合(産別)の候補者以外に対する支援の熱量が低いという現状も指摘されています。さらに、山尾志桜里氏は一連の経緯に反発して離党届を提出し、無所属で東京選挙区から出馬しました。これは国民民主党の2候補の票を数万ほど奪うとの見方もあり、情勢をさらに複雑にしています。
東京選挙区にはこの他にも、自民党が現職武見敬三氏と新人鈴木大地氏、立憲民主党がともに現職の奥村政佳氏と塩村文夏氏を擁立しています。また、公明党新人の川村雄大氏、日本維新の会元職の音喜多駿氏、共産党現職の吉良佳子氏、れいわ新選組新人の山本譲司氏らも立候補しており、激戦となっています。
総じて、国民民主党の参院選東京選挙区での戦いは、当初の自信とは裏腹に、山尾氏問題、失言、競合する参政党の台頭、都民ファーストの会や連合との連携のひずみ、山尾氏の無所属出馬による票割れ懸念など、様々な要因が絡み合い不透明感を増しています。今後の情勢の行方に注目が集まります。