参議院選挙(7月20日投開票)が7月3日に公示され、各地で候補者たちが熱い戦いを繰り広げている。その中で、国民民主党から公認を取り消されながらも無所属として東京選挙区から立候補した山尾志桜里氏(50)の動向が注目されている。山尾氏は公示2日前の7月1日に立候補を表明し、多くの人々に驚きを与えた。
山尾氏はかつて衆議院議員として愛知7区を地盤としていた。そのため、東京選挙区からの出馬はまさに「地盤・看板・かばん」のない厳しい戦いとなる。彼女がなぜこのような「玉砕」とも言われる出馬に踏み切ったのか、その背景には複雑な事情がある。
公認取り消しの背景と党内の波紋
山尾氏が国民民主党の公認内定を取り消されたのは、選挙前の6月10日に行われた記者会見が原因だった。この会見で、2017年の不倫報道について「お話しすることは控えさせてください」と繰り返し、世間の反感を買ったのだ。特に、この騒動に関連して不倫相手の妻が亡くなっていることへの言及を避けたことが批判の的となった。
会見後、国民民主党には全国の支持者から批判の声が殺到した。この事態を重く見た玉木雄一郎代表は、公認内定を撤回し「山尾斬り」に踏み切った。しかし、山尾氏はこの党の意思決定プロセスに疑問を呈し、党内のガバナンス不全を厳しく批判した。
政界関係者は、「山尾氏のスキャンダル対応はさておき、突如としてハシゴを外された彼女には、一定数の同情が集まった。結果的に、この同情が過去の疑惑を薄める効果も生んだ可能性がある」と指摘する。
東京選挙区の戦況と山尾氏の影響
東京選挙区の改選数は6議席に加え、補欠選挙分の1議席が加わり、合計7つの議席を争う大激戦となっている。総勢32人が立候補する中で、自民党、立憲民主党、国民民主党はそれぞれ2人擁立している。
戦前の予想では、7つの議席のうち5つは自民党、公明党、立憲民主党、共産党、国民民主党で確定すると見られていた。残りの2議席のうち1議席は、前月の東京都知事選で存在感を示した参政党の候補者が先行している状況だ。
最後の1議席は、自民、立憲、国民民主に加え、石丸伸二氏の「再生の道」から立候補している吉田あや氏らが絡む異例の大混戦が予想されている。
このような状況下で、土壇場での山尾氏の無所属出馬が戦局をさらに不透明にしている。彼女がどの候補者から票を「奪う」のかによって、勝敗が左右される可能性があり、一部では山尾氏を「キーマン」に挙げる声さえある。
山尾志桜里氏が無所属で東京選挙区の参院選に出馬し街頭で演説する様子
山尾氏は「中道政治」を標榜し、憲法改正論者としての立場を明確にしている。また、「女性・女系天皇の容認」や「個別的自衛権」など、自身の持論を展開している。彼女は街頭演説で、「憲法改正を言えば左派が離れ、女性天皇に言及すれば右派が離れる。どこに票があると言われるが、それは永田町の論理だ。私は左にも右にもとらわれない、この国の未来だけを思うど真ん中の中道の政策を、私の選挙で“見える化”したい」と訴えた。
ある政党の選対関係者は、山尾氏の政治姿勢が「読めない」と述べる。「彼女自身の当選は厳しいだろうが、それでも数万票は獲得する可能性がある。その票が他の候補者と食い合うことで、特に最後の1議席を争う候補者に影響が出る。2人当選を目指す国民民主党は、公認取り消しの経緯もあり、山尾氏に票を奪われることを警戒しているだろう」。
「玉砕出馬」に込められた戦略と今後の展望
山尾氏の今回の出馬には、単なる反発以上の戦略があると考えられている。彼女は参院選で一定の「爪痕」を残すことで、自身の政治的な価値を再確認し、次の政治活動につなげたい意向だ。
政治評論家の有馬晴海氏は、山尾氏の立候補の思惑について分析する。「今回、国民民主党からの立候補を目指す中で厳しく批判され、公認を取り消された。このまま不出馬であれば、“悪い評判”が定着し、次の選挙への道が閉ざされてしまう。今回、無所属であっても立候補することで、当選すればもちろん、たとえ落選しても、今回の出馬が一種の『禊(みそぎ)』となり、次の選挙では今回ほど厳しい批判を受ける可能性は低くなる。さらに、もし10万票近くを獲得できれば、メディアも簡単には批判しにくくなるだろう。あれほどバッシングされたということは、逆に言えばそれだけ知名度が高いということでもある」。
山尾氏陣営によると、選挙スタッフのボランティア応募者は日ごとに増加しているという。今回の選挙の結果がどうであれ、彼女が再び国会に戻る日は来るのだろうか。その行方は、今回の東京選挙区での戦いの「爪痕」が示すところによるのかもしれない。
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