夏の参議院議員選挙が迫る中、選挙戦における各党の公約や戦略に注目が集まっている。特に「事実上の政権選択選挙」との声も聞かれる今回の選挙を前に、「ブレまくり」と指摘されているのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。党の看板政策の一つである「消費税減税」に関する同氏の発言が、党内や有権者から疑問の声を引き起こしている。
消費税減税を巡る玉木代表の発言
国民民主党が参院選の公約として掲げるのは「実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税を一律5%に引き下げる」ことだ。しかし、玉木代表は今月1日、複数のメディア取材に対し、「足元の賃上げ水準が持続すれば消費税減税は必要ない。いまの数字だと消費減税をしてまで景気を刺激する状況にはない」との見解を示した。
この発言は、昨年まで3年連続で実質賃金がマイナスとなっている現状や、党の公約と矛盾するとして、党関係者や支持者から「約束が違う」「裏切られた」といった批判の声が上がった。ある党関係者は「まったく、浅はかにもほどがありますよ」とため息交じりに語っている。
翌日の弁明と政局への影響
ところが、翌2日には玉木代表の主張は一転した。トランプ前米大統領が日本との関税交渉に不満を表明したことを受け、記者団に対し「不確実性が高まり、消費税の減税は不可避になった」と説明し、改めて消費税減税を参院選で訴える考えを示したのだ。この短期間での主張変更は、有権者に対し「見せかけの減税派」との印象を与えかねない。
玉木代表のこの二転三転する態度は、参院選後の政局を見据えた戦略と分析する向きがある。自民党関係者によると、複数の世論調査で自公両党が参院選後に過半数を維持できるか微妙とされる中、玉木代表が消費税減税に強く反対する自民党の麻生太郎最高顧問や森山裕幹事長らに接近を図った可能性があるという。「参院選後の連立相手には私もいますよ」とアピールし、自身の政治的価値を高めて自公国連立の実現を画策していたのではないかという見方だ。
連立構想の崩壊と他の選択肢
しかし、玉木代表のもくろみは、自身の「備蓄米は動物のエサ」とした失言や、不倫疑惑を抱える山尾志桜里氏の公認騒動などで支持率が急落したことにより崩れ去りつつある。
政治部デスクは、消費税減税に慎重な石破茂首相や岸田文雄前首相は、支持率が落ち目の玉木代表ではなく、税に関する考えが近い立憲民主党の野田佳彦代表に秋波を送っており、参院選後は立民との大連立を目指す可能性が高いと解説する。
また、自公国連立に前向きだった麻生氏も、最近は「減税派の玉木はダメだ」と漏らしており、森山幹事長は参院選後、日本維新の会と連携して多数派を形成し、消費税減税阻止に動く算段があるとも伝わる。維新は参院選で躍進が期待され、首相候補になりうる人材も不在のため、自公維連立であれば自民党が首相の座を維持できる可能性が高いとみられている。
玉木代表の焦りと憶測
別の国民民主党関係者は、玉木代表の焦りは相当なものだと語る。党内には、玉木代表が消費税減税への言及を一時的に引っ込めた理由について、「麻生氏に『消費税減税を引っ込めたら総理にしてやる』とそそのかされたからだ」とする憶測も飛び交っているという。この一連の言動が、起死回生の一手ならぬ「一声」だったのではないか、との見方もある。
「心の形(あら)わるる所は尤も言(げん)と色(いろ)とに在り」――。参院選を目前に控える中、玉木代表の戦略の迷走は、国民民主党の今後を左右する可能性を秘めている。
【出典】
「週刊新潮」2025年7月17日号 掲載
新潮社
https://news.yahoo.co.jp/articles/d35b05b47ae46fc8cf3277c5107c3c995cec8db6