車のハンドルを握ると、普段は温厚な人でも性格が変わると言われることがあります。少しの遅れに舌打ちをしたり、文句を言うだけでなく、車間距離を極端に詰めたり、執拗なクラクションやパッシングを繰り返す行為は、まさに「煽り運転」に他なりません。過去には煽り運転が悲惨な事故につながった例もあり、社会問題化しています。これを受け、2020年には道路交通法が改正され、「妨害運転罪」が創設されました。これにより、煽り運転は直接取り締まりの対象となり、厳しい罰則が科せられるようになったのです。
妨害運転罪による厳しい法的制裁
妨害運転罪が適用されると、違反者は一発で運転免許取り消し(欠格期間2年)となります。さらに「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられ、違反点数は25点が加算されます。高速道路上で相手の車を無理やり停車させるなど、「著しい危険」を生じさせた場合は、さらに重い罰則が適用されます。「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」、違反点数35点加算、そして3年以上の運転免許取り消しとなります。加えて、もし煽り運転によって人死傷させた場合には、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)などに問われる可能性もあり、その罰則はさらに重くなります。このように、煽り運転は単なるマナー違反ではなく、極めて危険で重大な犯罪行為と位置づけられています。
煽り運転による危険な状況を表現したイメージ画像
出典=『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』
煽り運転に遭遇した場合の具体的な対処法
万が一、自分が煽り運転の被害に遭ってしまった場合、どのように対処すれば身の安全を守れるのでしょうか。「リーゼント刑事」として42年間凶悪犯と対峙してきた元刑事の秋山博康氏は、冷静かつ具体的な行動を推奨しています。感情的に反応せず、以下のポイントを実践することが重要です。
- 自分の命と安全を最優先にする: 煽られたからといって、腹いせにブレーキを踏み返したり、クラクションを鳴らしたり、相手を刺激するような危険な運転は絶対にやめてください。相手の挑発に乗らず、冷静を保つことが第一です。
- 安全な場所へ避難する: 高速道路上や一般道路の路肩など、危険な場所で立ち止まるのは避けてください。コンビニエンスストア、サービスエリア、パーキングエリアなど、人目が多くて安全な場所に速やかに移動し、停車させましょう。
- すべてのドアをロックする: 相手が追ってきて罵声を浴びせてきても、絶対に車のドアを開けてはいけません。煽り運転をするような人物は、逮捕されると意気消沈することも多いものです。相手は虚勢を張っているだけと考え、こちらも冷静に対応しましょう。
- すぐに110番通報する: 安全な場所に停車したら、すぐに警察の110番に電話してください。通信指令課はおおよその位置を把握できます。慌てず、相手の車のナンバー、車種や色などの特徴、そして現在の状況を落ち着いて正確に伝えましょう。
- ドライブレコーダーなどで相手の行為を記録する: 証拠として、相手の危険な運転行為を記録することが非常に有効です。ドライブレコーダーが搭載されていれば映像を保存し、なければ同乗者にスマートフォンなどで動画撮影をしてもらいましょう。もし相手が車を降りてドアを蹴ったりミラーを壊したりするような行為に及んだ場合、器物損壊罪での現行犯逮捕も可能になります。証拠は警察の捜査に不可欠です。
まとめ
煽り運転は、被害者の安全を著しく脅かす悪質かつ違法な行為です。もし遭遇してしまった場合は、決して感情的な報復をせず、自身の命を守ることを最優先に行動してください。安全な場所に避難し、警察に迅速に通報すること、そしてドライブレコーダーなどで証拠を記録することが、身を守り、加害者の検挙につなげるための最も有効な手段です。元刑事が語るこれらの具体的対処法を心得ておくことが、万が一の事態から自身を守る盾となります。
【参考資料】
秋山博康『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』(KADOKAWA)