ドナルド・トランプ米大統領(当時)は、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領に対する自身の強硬姿勢への転換について、妻であるファーストレディー・メラニア夫人の私的な発言が影響したことを明かしました。家族への厚い信頼を持つトランプ氏にとって、身近な者の言葉が政策決定に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されており、今回の対露強硬路線への転換も、メラニア夫人の存在が背景にあったとみられています。
テキサス州での座談会で発言するメラニア・トランプ大統領夫人。彼女の私的な発言がトランプ氏のプーチン大統領への強硬姿勢に影響を与えた可能性がある。
メラニア夫人の「また別の都市が攻撃されたわ」という言葉
トランプ氏はホワイトハウスでの北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長との会談中、プーチン氏との電話協議が裏切りに終わるという不満を強調しました。その際、メラニア夫人との会話を例に挙げ、「私は家に帰り、ファーストレディーに『今日はウラジーミル(プーチン氏)と話をした。素晴らしい会話だった』と言った。彼女は『本当に? また別の都市が攻撃されたわ』と言った」と述べました。
さらに別の会合でも、「家に帰ってファーストレディーに『ウラジーミルととても素晴らしい話をした。これで決着がついたと思う』と言う。そしてテレビをつけると、彼女は『あら、おかしいわね。介護施設が爆撃されたわ』と言うんだ」と語っています。これらの発言は、電話協議後もロシアがウクライナに対し無人航空機(ドローン)やミサイルによる激しい攻撃を続けた際の、メラニア夫人の現実的な反応を示しているとみられます。
ファーストレディーの知られざる影響力とトランプ政権の家族外交
メラニア夫人は東欧スロベニア出身で、モデルとして活躍後、1996年にニューヨークへ移住しました。2005年にトランプ氏と結婚し、三男バロン氏の母親でもあります。彼女はファーストレディーとして公の場に現れることを避ける傾向があり、ロシアによるウクライナ侵攻についても公の場での発言はほとんどありませんでした。
しかし、トランプ氏の政策決定に家族の発言が影響を与えた前例は他にも見られます。トランプ政権1期目の2017年4月、シリアが化学兵器を使用したことへの報復としてシリアを攻撃した際には、長女イバンカ氏の発言がトランプ氏の決断を後押しした可能性が高いと米メディアが報じていました。イバンカ氏は大統領補佐官に、その夫であるジャレッド・クシュナー氏も大統領上級顧問として1期目のトランプ政権を支えるなど、トランプ氏の家族が持つ目に見えない影響力は、その政権運営の重要な側面を形成してきたと言えるでしょう。
結論
トランプ氏のプーチン大統領に対する強硬姿勢への転換は、単なる外交戦略の変化に留まらず、ファーストレディー・メラニア夫人という最も身近な存在からの現実的な視点と声が、その背景にあった可能性を浮き彫りにしました。この事例は、トランプ政権における家族の信頼関係と、それが国際政治における政策決定に与える独自の、そしてしばしば見過ごされがちな影響力を改めて示唆しています。