日本を取り巻く安全保障環境、戦後最も厳しく複雑な状況に:2025年版防衛白書が警鐘

日本の防衛省は、中国、ロシア、北朝鮮の東アジア地域における軍事活動の活発化を受け、現在の日本の安全保障環境が第二次世界大戦後で最も厳しく複雑な状況にあるとの認識を示しました。2025年版の防衛白書は、日本の平和と秩序が深刻な挑戦を受けていると強調し、これらの国の動向が日本にとって看過できない脅威となっている現状を詳細に分析しています。

中国の軍事行動:戦略的挑戦と地域情勢への影響

防衛白書は、中国による軍事行動を「これまでにない最大の戦略的挑戦」と位置付けています。中国政府は、東シナ海の尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺での活動を活発化させると同時に、軍事力を質的にも量的にも急速に増強しています。日本が実効支配する尖閣諸島に対し、中国が領有権を主張し続ける中で、周辺海域での中国海警局の船による挑発的な行動は常態化し、日本の安全保障上の懸念を増大させています。

白書は、アジア地域の将来、特に日本にとって重要な同盟国である米国と中国との国家間競争について悲観的な見通しを示しており、グローバルなパワーバランスの大きな変化と国家間の競争の顕在化が指摘されています。特に、台湾周辺での中国軍の活動激化は大きな脅威であり、中国は自国軍が活動する場所で既成事実を作り出し、実戦能力の向上を図っていると分析されています。これは、主要なシーレーンを抱える南シナ海における中国の行動と類似しており、日本にとって正当な関心事項となっています。

これに対し、中国国防省の報道官は日本の防衛白書が「中国の脅威」をあおり立て、中国の内政に著しく干渉していると非難。日本が軍事力の制約を緩和する口実を見つけるために虚偽の物語を作り上げていると述べ、日本の憲法が自衛のみに軍事力を制限していることに言及しました。

ロシアとの連携強化と共同活動の現状

防衛白書は、中国の一方的な行動だけでなく、ロシアとの連携強化にも焦点を当てています。中国軍は、活動範囲拡大の一環として、爆撃機の共同飛行や艦艇の共同航行など、ロシアとの軍事協力関係を深めています。これらの度重なる共同活動は、日本に対する示威活動を意図していると白書は指摘しており、周辺海域での緊張を高めています。

2024年度における航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)の回数は計704回に上り、このうち中国機に対するものが464回、ロシア機に対するものが237回でした。これはほぼ1日に2回の割合で、日本の空域の安全確保に高い負荷がかかっていることを示しています。

また、ロシアによる3年半にわたるウクライナ侵攻とそれに伴うロシア軍の増強は、米国の主要な同盟国である日本にとって深刻な懸念材料です。白書は、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であると強調し、ウクライナ情勢がアジア太平洋地域にも波及する可能性を示唆しています。

北朝鮮の核・ミサイル開発による差し迫った脅威

北朝鮮は、核兵器とそれを運搬する弾道ミサイルの開発を継続的に進めており、日本の安全保障にとってこれまで以上に重大かつ差し迫った脅威となっています。防衛白書によれば、北朝鮮の弾道ミサイルは核兵器を搭載可能であり、日本全土を射程に収めているとみられています。

北朝鮮が頻繁にミサイル発射実験を繰り返すことは、地域の安定を著しく損ない、日本を含む周辺国に直接的な脅威を与えています。核・ミサイル能力の向上は、国際社会の非核化に向けた努力に逆行するものであり、日本は今後も国際社会と連携し、北朝鮮の完全な非核化を求めていく姿勢を維持するでしょう。

米インド太平洋軍司令官の見解との合致

今回の防衛白書が示す厳しい安全保障認識は、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官が今年4月に表明した懸念と多く重なります。パパロ司令官は当時、中国が前例のない軍の近代化と、米国本土や同盟国、パートナーを脅かす攻撃的な行動を続けていると指摘していました。また、中国、ロシア、北朝鮮の協力関係の深化が太平洋における脅威を増大させているとの見解を示しており、日本の防衛白書の分析と完全に一致しています。

これらの共通認識は、日本と米国が共有する安全保障環境への危機感を示すものであり、日米同盟の重要性が一層高まっていることを浮き彫りにしています。

結論:不確実性が増す時代における日本の防衛の重要性

2025年版防衛白書は、日本が直面する安全保障環境が「戦後最も厳しく複雑」であるという明確なメッセージを伝えています。中国の軍事力増強と地域での活動活発化、ロシアとの連携強化、そして北朝鮮の核・ミサイル開発は、それぞれが独立した脅威であるだけでなく、複合的な要因として日本の安全保障に多大な影響を及ぼしています。

この厳しい現実に対し、日本は防衛力の抜本的強化を加速させるとともに、日米同盟を基軸とした国際的な連携をさらに深めていく必要があります。地域の平和と安定を維持するためには、透明性の高い情報公開と、国際法に基づく秩序の維持に向けた揺るぎない外交努力が不可欠です。

参考文献