トランプ第2次政権が孤立主義を標榜するなか、日本政府は軍備を増強することで米国の軍事パートナーにふさわしい存在だと必死にアピールしていると、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は指摘する。日本の対中戦略の最前線と日米軍事同盟の背後でおこなわれる駆け引きを、同紙記者が取材した。
「軍事的に重要な盟友」になれるか
暗緑色のトラックに搭載された艦船破壊用ミサイルは移動も遮蔽もたやすいが、第7地対艦ミサイル連隊の隊員らはそれを隠そうともしない。
2024年に新設されたばかりのこの連隊と、移動式地対艦ミサイルは沖縄本島の丘の上に配備され、数キロ先の海上からも見える。
基地が丸見えなのは意図的だ。第7地対艦ミサイル連隊は、日本の陸上自衛隊が新設した2つのミサイル連隊のひとつで、4つの中隊が日本の南西の端に位置する沖縄本島などに配備された。
近年、中国海軍の軍事力が強大化し、その艦船が頻繁に日本の近海を航行している。第7地対艦ミサイル連隊は、そうした中国の軍事的脅威に対抗するために設立された。
同連隊隊長の井藤庸平は基地のこの配備について、「敵が近づかないように兵器を見せている」と説明する。
視野に入れているのは、中国だけではない。米国、とくにドナルド・トランプ米大統領も“標的”だ。トランプはかねてから、日本が自国の安全保障を在日米軍に頼りすぎていると非難してきた。
日本はトランプに戦略的に防衛力増強をアピールしようとしており、地対艦ミサイルの配備はその一環だ。日本政府は米政府と追加関税の撤廃をめぐる交渉をしているところだが、日米間の安全保障の強化こそが最優先事項だ(7月8日、トランプ政権は日本からの輸入品に対して8月1日から25%の関税を課すと表明した)。
日本は関税交渉を受け、米国産のLNG(液化天然ガス)や半導体製品、兵器の大量輸入を約束することになるかもしれない。
日本の自衛隊は長年、さまざまな制約を受けてきたが、米国製および国産の新型ミサイルなどの先端兵器の導入を拡充しており、米軍と共同作戦を実施できるような技能とテクノロジーを保持しつつある。この方針転換は、日本が米国の安全保障にとって必要不可欠なパートナーであると証明するためにおこなわれている。
「米国には確実に日本を支援してほしいと考えています。そのためには通常戦力を強化する必要があります」と、2014~19年まで安倍政権下で国家安全保障局次長を務めた兼原信克は話す。
「トランプ大統領に、日本は有益かつ重要な盟友だと示したいのです」