ワシントン – ドナルド・トランプ米大統領は16日、ジェローム・パウエル連邦準備理事会(FRB)議長を解任する計画はないと述べたものの、同議長への批判を改めて表明し、解任の可能性を完全に否定することはありませんでした。この発言は、パウエル議長の去就を巡る複数の報道が飛び交う中でなされ、世界の金融市場に一時的な動揺をもたらしました。
これに先立ち、関係筋はロイターに対し、トランプ大統領がパウエル議長の解任に「オープン」であると明かし、ブルームバーグもホワイトハウス当局者の情報として、トランプ大統領がパウエル議長を近く解任する公算が大きいと報じていました。トランプ大統領は、これらの報道を否定しつつも、15日に共和党議員らと解任の可能性について意見を交わしたことは認めました。
トランプ米大統領が連邦議会議事堂で演説する様子。パウエルFRB議長の解任を示唆する発言が報じられた背景に関心が集まる
「解任計画なし」発言の背景と市場の反応
トランプ大統領は記者団に対し、パウエル議長の解任計画に関する報道は「事実でない」と述べました。しかし、解任の可能性を排除するかとの問いには「何も排除していない」と答え、一方で「不正行為で辞任しない限り、解任の可能性は非常に低いと思う」とも付け加えました。これは、一見すると否定的ながらも、完全な否定ではないという含みを持たせた発言として受け止められました。
パウエル議長に対するトランプ大統領の批判は止まらず、「遅すぎる」「ひどい議長」「何もするつもりがない」とまで表現しました。ただし、自身の関心は数カ月後に後任を選出することにあるとも述べ、長期的な視点を示唆しました。
トランプ大統領がパウエル議長を近く解任する可能性があるとの報道が流れると、外国為替市場ではドルが一時的に急落する動きが見られました。しかし、大統領がその可能性を「極めて低い」との見解を示したことを受け、ドル相場は回復しました。米株式相場も上昇して取引を終え、米国債利回りも下落幅を縮小するなど、市場は落ち着きを取り戻しました。
FRBの独立性と金融政策への圧力
トランプ大統領はここ数カ月間、FRBの金融政策に対し繰り返し批判を展開しており、特にFRBが利下げを拒否していることに強い不満を抱いています。トランプ大統領は公然とパウエル議長の辞任を求めていますが、実際には大統領に金融政策の見解の相違のみを理由としてFRB議長を解任する権限はありません。パウエル議長自身も、来年5月15日までの任期を全うする意向を繰り返し表明しています。
米情報番組「リアル・アメリカズ・ボイス」のインタビューでパウエル氏の解任検討について問われた際、トランプ大統領は「彼が辞任したいなら歓迎する。それは彼次第だ。私が解任すれば市場が混乱すると言われている」と述べ、市場への影響を考慮している姿勢も見せました。
専門家が指摘するFRBへの圧力と経済への影響
アナリストらは、パウエル議長に対する政治的圧力が今後も続き、FRBが物価安定と雇用最大化という二つの責務を遂行する能力に悪影響を及ぼす可能性を懸念しています。
J.P.モルガンの米国担当チーフエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は、「FRBの独立性の低下は、関税による上昇圧力や幾分のインフレ期待上昇に既にさらされているインフレ見通しの上振れリスクを高める可能性が高い」と指摘しています。同氏は、パウエル議長への解任圧力が終わったとは考えておらず、圧力が続けば、投資家がインフレ上昇リスクからの保護を一段と求めるため長期金利が上昇する可能性が高いと分析。結果として、米政府の借り入れコストは下がるどころか高まるだろうと警鐘を鳴らしました。
結論
トランプ大統領のパウエルFRB議長に対する発言は、市場に一時的な波紋を広げながらも、現在のところ解任の可能性は低いとの見方が示されました。しかし、大統領からの継続的な圧力は、FRBの独立性を巡る懸念を深め、今後の金融政策運営や米国経済の安定に影響を与える可能性があります。市場と専門家は、FRBの独立性が守られ、適切な経済運営が継続されるかどうかを注視し続けることとなるでしょう。