「地方創生」という言葉が広まって久しいものの、依然として東京への一極集中は止まらないのが現状です。こうした中で、地域経済を持続可能にするためのヒントとして注目を集めているのが「輸入置換」という考え方です。これは、外部から購入していたモノを地元で生産・消費することで、地域外への貨幣の流出を防ぎ、地域内での経済循環を促進する概念を指します。実は、この輸入置換を100年以上も前から実践している共同売店が沖縄には存在します。古くから地域に根差す売店の経営から、現代の私たちや地域社会が学べることは何でしょうか。
地方経済の活性化と地域内循環を象徴するイメージ写真
1%の地産地消が地域経済にもたらす効果
地元経済の活性化における「輸入置換」の可能性を示す興味深い試算があります。イギリスのシンクタンク、ニュー・エコノミクス・ファンデーション(NEF)がコーンウォール地方(日本の鳥取県とほぼ同じ面積と人口)を対象に行った調査では、地域住民、労働者、訪問者がそれぞれわずか1%だけ地元の商品やサービスを多く購入するだけで、地域内で循環する貨幣が年間で約75億円増加するという結果が出ました。これは鳥取県と同規模の人口約50万人で考えると、1人あたり年間1万5000円が手元に巡る可能性が高まる計算になります。鳥取県の年間予算約3000億円と比較しても、その2.5%に相当する規模です。このデータは、わずかな地域内消費の増加が、いかに大きな経済効果を生み出すかを示唆しています。この割合が2%や3%と増えれば、地域内を巡る貨幣は飛躍的に増加し、持続可能な地域経済の基盤を強化することでしょう。
江戸時代と明治維新に見る地域経済の変遷
現在の東京一極集中や地域経済の脆弱性を考える上で、歴史的な視点も有益です。江戸時代までは、各地域における経済は比較的豊かに循環していました。たとえ参勤交代で多額の費用が費やされたとしても、全国規模のチェーン店が地域に展開することはほとんどなく、地元産の商品やサービスを購入する機会が8割以上を占めていたと考えられます。地域内での経済循環が強固であったため、各藩は独自の経済力を有していました。
しかし、明治維新によって誕生した新政府は、こうした地方の経済的自立を警戒したのかもしれません。藩が地域内経済循環を続けて豊かであり続ければ、東京の新政府の統制が及びにくくなります。そこで、廃藩置県を断行し、税収を一旦すべて東京に集約。中央の指示に従う都道府県には手厚く再分配するという仕組みを構築しました。さらに、東京、横浜、大阪、神戸などの大都市に本社を置く中央財閥の台頭を容認し、全国各地から貨幣を吸い上げる経済構造を強化していったと考えられます。これにより、地域の経済的自立性は徐々に失われていったと言えるでしょう。
公共事業の光と影:鳥取県の事例から学ぶ
地域の経済活性化策として、しばしば公共事業が議論の対象となります。バブル経済崩壊後の1990年代には、各地の経済を立て直すために国主導の公共事業が推進されました。公共事業は需要を創出し、様々な分野に波及効果をもたらし、雇用を増大させると言われ、ケインズ的な経済政策の典型とされました。しかし、かつて鳥取県知事を務めた片山善博氏は、この公共事業の効果に疑問を呈しました。ジェイン・ジェイコブズの『発展する地域、衰退する地域』にも言及されている片山氏は、2000年代に「公共事業を減らす」という方針を打ち出したことで知られています。道路などのインフラは整備されても、契約する企業やそこで働く人々が地域外から来る場合、貨幣は地域の外に流出してしまい、結果として地元に経済的恩恵が残らないという課題を指摘したのです。この事例は、経済効果を地域内に留めることの重要性を浮き彫りにしています。
結論
「輸入置換」という考え方は、東京一極集中が続く現代において、地域経済を持続的に発展させるための重要な鍵となります。コーンウォール地方の試算が示すように、住民一人ひとりのわずかな行動の変化が、地域全体の経済に大きな波及効果をもたらす可能性を秘めています。江戸時代の地域経済の強固さや、明治維新以降の中央集権化がもたらした変化、さらには公共事業が必ずしも地域に富を残さないという鳥取県の事例は、地域内での貨幣循環の重要性を改めて私たちに問いかけています。地域を活性化させるためには、ただ外部から資源を呼び込むだけでなく、地域内で生産し、地域内で消費するという「輸入置換」の視点を取り入れ、地域に根差した経済活動を強化していくことが不可欠です。
参考資料
- 山崎 亮『面識経済 資本主義社会で人生を愉しむためのコミュニティ論』(光文社)
- 枝廣淳子『地元経済を創りなおす』(岩波書店)
- ジェイン・ジェイコブズ著、中村達也訳『発展する地域衰退する地域』ちくま学芸文庫、2012