人里迫るクマの脅威:北海道福島町死亡事故と駆除、深まる共存の課題

2024年7月12日未明、北海道福島町で新聞配達中の男性(52)がクマに襲われ死亡するという痛ましい事故が発生しました。この事態を受け、福島町役場は直ちに「ヒグマ警報」を発令し、住民に対し、生ゴミの管理徹底や夕方から早朝にかけての外出自粛を強く呼びかける異例の事態となりました。市街地でのクマの出没が深刻化する中、人里と野生動物の境界線が曖昧になりつつある現状が浮き彫りになっています。

山間部の民家に出没したクマのイメージ写真。クマ出没の脅威を象徴する一枚。山間部の民家に出没したクマのイメージ写真。クマ出没の脅威を象徴する一枚。

北海道福島町で発生した痛ましいヒグマ人身事故の全容

事故は7月12日未明、北海道福島町内で発生しました。通報を受け、警察などが付近を捜索したところ、新聞配達を行っていた52歳の男性が倒れているのが発見され、その場で死亡が確認されました。この悲劇を受け、福島町役場は同日中に町内全域に「ヒグマ警報」を発令。「ヒグマは生ゴミ等に誘引され市街地に出没している可能性が高まっております」として、住民に対して不要不急の外出、特に夕方から早朝の時間帯の外出を自粛するよう強く求めました。

地域のクマ事情に詳しい北海道猟友会の松前・福島地域担当者は、「2年ほど前にも大千軒岳で大学生がヒグマに襲われて死亡する事故がありました。それ以降も山裾や住宅地での目撃情報はあったものの、街中を悠々と歩いているというのは、これまであまりなかったと思います」と、今回の事態の異例さを語っています。

事件後、事態は7月18日午前3時半に動きました。福島町の住宅街に位置する藪の中で、ハンターによって体長208cm、体重218kgのヒグマ1頭が駆除されました。この個体は8歳から9歳と推定されており、残念ながら男性を襲った個体とは別の個体であると見られています。しかし、人身被害を防ぐための緊急的な措置として、駆除は必要不可欠な判断でした。

クマ駆除を巡る社会の反応と過去の事例

クマの駆除を巡る問題は、今回に限ったことではありません。記憶に新しいのは、2023年秋田県美郷町で発生した事案です。当時を知る全国紙記者は次のように振り返ります。「美郷町の畳店にクマの親子3頭が侵入し、捕獲後に猟友会によって駆除されました。地元住民からは安堵の声が上がる一方で、役場には『駆除しないでほしい』といった抗議の電話が殺到したのです。その多くは県外からの電話で、中には『クマを殺すならお前も死んでしまえ』といった過激な内容も含まれていました。これに対し、秋田県知事が『これに付き合っていると仕事ができません。業務妨害です』と言及する事態になったほどです。」

今回の福島町での駆除についても、同様の苦情電話が福島町役場に殺到している状況です。取材に応じた福島町役場の職員は、「今朝からひっきりなしに電話がかかってきています。20件くらいでしょうか(11時取材時点)。『クマを殺すな』という感じで、動物愛護団体の方や個人の方など様々です。こちらとしては『はい』『はい』とお話をお聞きして対応している形です。強い口調で、『クマがいる土地に人間が住んでいるようなものなので、それでクマを殺すのはどうなのか』などとおっしゃる方もいらっしゃいました」と、その対応に追われる現状を明かしました。

人里に現れるクマの生態変化と今後の対策

前出の猟友会担当者は、野生のクマが人里に降りてくる流れは今後も止まらないのではないかと危惧しています。その背景には、クマの食性の変化があるといいます。「最近の傾向として、クマがシカの肉をよく食べているんですよ。大雪で餌がなくて死んでしまったシカや、ハンターが獲った後に残された個体……クマは、そういったものを食べているわけですね。それで、だんだんと肉食に慣れてきている、そんな印象です。」

この食性の変化は、クマがより大胆に人里へ近づく要因の一つになり得ます。だからこそ、クマを人里に呼び寄せないための取り組みが、これまで以上に重要になります。具体的には、ゴミの適切な管理(ゴミステーションへの早出し回避)、クマの餌となりうるものを長時間屋外に放置しないといった対策の徹底が求められます。

かつては「市街地にクマは出ない」という一般論がまかり通っていましたが、今回の北海道福島町の痛ましい事故、そして過去の事例からも明らかなように、その常識はもはや通用しなくなってきているのかもしれません。

北海道福島町で起きた悲劇は、私たちにクマと人との共存という喫緊の課題を突きつけました。住民の安全確保を最優先としつつ、駆除に対する多様な意見にも耳を傾け、クマの生態変化に適応した、より現実的かつ効果的な対策を講じていく必要があります。クマを人里に寄せ付けないための地域全体の協力と、冷静な議論に基づいた継続的な取り組みが、今後の安全な生活を守る鍵となるでしょう。

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