中国東部の安徽省に住む農家の張勝武さん(60)が、その並外れた情熱と技術で、2人乗りの自作潜水艇「大黒魚(ダーヘイユイ)」を完成させ、話題を呼んでいます。この独創的な水上ビークルは、水深8メートルまで潜水し、30分間の水中滞在を可能にする驚くべき性能を秘めています。これは、個人の夢と技術が融合した、まさに現代の冒険物語と言えるでしょう。
夢の実現へ:挑戦と苦難の道のり
元大工であり海運業にも携わっていた張さんの潜水艇建造への夢は、2014年にテレビで見た潜水艇の映像がきっかけでした。「長年水のそばで過ごしてきたが、水中に潜れる船は見たことがなかった。他の人ができるなら、私にもできるはずだ」という強い思いが、彼の挑戦の原点となりました。しかし、この壮大な計画は妻から「高価で、危険で、役に立たない」と猛反対を受け、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
夢を諦めなかった張さんは、まず鋼板やエンジン、その他の材料に約5000元(約10万円)を投じ、2016年に「第一世代」の手作り潜水艇を進水させました。しかし、この試みは漏水という形で失敗に終わります。それでも彼の情熱は衰えず、数年後にはさらに4万元(約83万円)を投じて新たな鋼鉄構造物を構築。艇の底に2トンのコンクリートを流し込み、二つのバラストタンクを配するなど、徹底的な改良を施しました。この粘り強い個人製作への取り組みが、現在の「大黒魚」誕生へと繋がったのです。
中国の農家、張勝武さんが自作の潜水艇「大黒魚」を川で操縦する様子。
「大黒魚」の性能と独創性
最近、安徽省含山県の自宅近くの川で進水試験を行った「大黒魚」は、重さ5トン、全長7メートルという堂々たる姿を誇ります。中国国営中央テレビ(CCTV)が報じた映像では、張さんがハッチから器用に艇を操縦し、その後ハッチを閉めて水中に潜行する様子が鮮明に映し出されていました。
中国海軍の先進的な原子力潜水艦とは対照的に、張さんの自作潜水艇は小型のバッテリーと電動モーターを動力源としています。時速4ノットで水中を航行し、最長30分間の潜水が可能です。このシンプルな構造ながらも、8メートルという実用的な深度まで潜れる点は、彼の工学的知識と独創性の証と言えるでしょう。
中国における自作潜水艇の挑戦者たちと未来への展望
中国ではこれまでにも、個人の手による潜水艇建造への挑戦が報じられてきました。2009年にはカラオケバーの店員が北京の貯水池で自作潜水艦を操縦した事例があり、また2015年には北部陝西省の村民が、9.2メートルもの大型潜水艇を製作するために20万元(約414万円)の借金を抱えたことが伝えられています。これらの事例は、中国における個人の発明意欲や挑戦精神の豊かさを示しています。
張さんは、「大黒魚」の成功に満足することなく、今後さらに大型の潜水艇を建造する計画があるといいます。彼の物語は、農業に従事する傍ら、自身の「水中に潜る」という子供の頃からの夢を追い続け、困難を乗り越えて実現させた、まさに粘り強さと情熱の象徴です。このような個人の発明と探求は、社会に新たな視点とインスピレーションを与え続けています。
参考文献
- AFPBB News. (2023年7月17日). 中国人農家、潜水艇を自作 「大黒魚」進水. Yahoo!ニュース. https://news.yahoo.co.jp/articles/d55bda61170d3de5fef728d44c2d6ab1b86675c3