かつて日本のフェリーといえば、何十人もの乗客が同じ部屋で雑魚寝する、波に揺られながらの移動手段という印象が強かったかもしれません。しかし、ここ10年、20年の間にそのイメージは劇的に変化しました。各航路では新造船の導入や高速化が進み、利用者のニーズは「格安の雑魚寝スペース」から「ゆったりとした個室空間」へと大きくシフトしています。広々とした船内には、家族で楽しめる工夫や質の高いグルメも充実。現代の進化したフェリーは、単なる移動手段を超えた快適な船旅を提供しています。
日本の港に停泊する大型フェリー。進化した現代のフェリーの快適な船旅を象徴する風景。
コロナ禍が加速させたフェリーの「個室化」
日本のフェリー各社は、2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、船内でのパーソナルスペース確保を一層推進するようになりました。特に夜間運行を行う長距離フェリーにおいては、現在ではほとんどの船が個室や半個室を中心に客室を構成しており、乗客が一晩中ゆったりと過ごせる環境が整っています。この変化は、利用者のプライバシーと快適性を重視する時代の流れに合致するものです。
成功事例:東京九州フェリーの戦略
フェリー各社が個室化を加速させる大きなきっかけとなったのが、2021年7月に就航した「東京九州フェリー」(神奈川・横須賀港~福岡・新門司港)です。同航路の船「はまゆう」と「それいゆ」は、コロナ禍の真っただ中に就航を迎えました。そのため、「三密」発生のリスクが高い大人数での大部屋ではなく、個室を中心とした客室構成を採用しました。この戦略が奏功し、「車ごと船に乗り込み、個室で人と会わずに過ごせる船」として瞬く間に評判を呼びました。コロナ禍にもかかわらず、目標としていた乗船率70%をクリアし、日によっては満席となるほどの好調ぶりは現在も続いています。
利用者ニーズの変化に対応する名門大洋フェリー
東京九州フェリーの成功に続き、「名門大洋フェリー」も建造中の新船の設計変更に踏み切りました。2021年12月にデビューを控えていた「フェリーきょうと」は、大部屋スペースの大半を「コンフォート・リクライニング」などの半個室へと振り向けました。寝具やコンセントもしっかりと設置し、カプセルホテルと同程度のパーソナルスペースを確保した結果、料金は上がったものの、利用者の減少は発生しませんでした。むしろ、新船の就航後は最も安価な船室よりも、ワンランク上の船室から予約が埋まる状況が続いているといいます。この現象は、コロナ禍がフェリー会社の戦略だけでなく、利用する側のニーズや価値観すら変えたことを示唆しています。
「海上のリゾートホテル」と化した船内空間
ここ数年で新船への入れ替えが進んだことにより、フェリーの船内共用スペースも大きく進化しました。各社の新造船は、広々として明るい空間が特徴です。多くの船のエントランスは2フロアから3フロアが吹き抜けになっており、船内に足を踏み入れた瞬間の開放感は、まるで「海上のリゾートホテル」のようです。子どもが遊びまわれるスペースや、地元の食材を活かしたグルメを提供するレストランなど、充実した船内設備は、移動時間そのものを旅の楽しみの一部に変えています。
結論
日本のフェリーは、単なる移動手段から、快適なプライベート空間と上質な体験を提供する「旅の目的地」へとその姿を変貌させています。特にコロナ禍が加速させた個室化の流れは、利用者の安全と快適性への意識を高め、よりパーソナルな船旅への需要を喚起しました。今後も、進化し続ける日本のフェリーは、多様なニーズに応える新たな船旅の可能性を広げていくことでしょう。