参政党のメディア対応に波紋:報道機関「取材拒否」を問う

日本の政治において、メディアと政党の関係性は常に注目されてきた。近年、急速に影響力を拡大する参政党が、特定の報道機関に対して「取材拒否」を行った問題が波紋を呼んでいる。TBS系報道番組「報道特集」は、この「参政党の”メディア排除”を問う」と題した特集で、参院選後の定例会見で起きた取材拒否の詳細と、それが日本のジャーナリズム、ひいては国民の「知る権利」に与える影響について深く掘り下げた。この事態は、民主主義社会における言論の自由と、情報流通のあり方を改めて問うものとして、広く議論を呼んでいる。

参政党による取材拒否の経緯と詳細

問題の発端は、参院選で躍進した参政党が7月22日の定例会見で、一部の記者、特に神奈川新聞の記者の取材を拒否したことにあった。「報道特集」では、この経緯を詳細に追跡。神奈川選挙区で当選した参政党の初鹿野裕樹氏が、選挙戦終盤に川崎駅での演説中、抗議のプラカードを掲げる人々を「ああいうのは非国民」と発言し、聴衆から拍手喝采が起きた場面を動画で紹介した。この発言について、現場取材していた神奈川新聞の記者は「公共の空間で『非国民』という言葉を聞いたのはヘイトスピーチのデモ以外ではない。選挙運動に乗じた形で発言する怖さというか、そういう感情は持ちました」と番組に語っている。記者が発言の真意を直撃した際、初鹿野氏が「辞書で調べればわかる」と回答した様子も放送された。後に神谷代表は会見で「非国民という言葉は良くない。初鹿野さんにしっかり注意したい」と述べている。

しかし、その一連の出来事の後、参政党は神奈川新聞記者の会見取材を拒否。会見場では、党スタッフが「事前登録されてなかったらダメですよ」と主張し、記者が「なんで排除されなきゃいけない」「政党としてあり得ない」と反論する音声がオンエアされた。スタッフは「あり得るかどうか、こちらが決めます」と発言。実名で番組の取材に応じた神奈川新聞の石橋学記者は、最終的に警備員を呼ばれて退場を余儀なくされたと述べ、「都合の悪い記者を排除する、明らかに意図があった」と推察し、さらに「権力の側が『いていい記者』と『いてはいけない記者』を分断して、排除していく。権力の暴走というものがすでに始まっている」と強い懸念を示した。

TBS本社の外観、メディアと政治の関係性を示す象徴的な画像TBS本社の外観、メディアと政治の関係性を示す象徴的な画像

ジャーナリズムと市民への影響

この取材拒否問題は、日本のジャーナリズムのあり方と、市民が情報を受け取る権利に直結する重要な論点となっている。TBSの山本恵里伽アナウンサーは、ジャーナリズムに詳しい早稲田大学の澤康臣教授に取材。澤教授は、記者会見出席拒否のような問題に対し、「メディア同士がもっとつながって、声をあげていくべきだ」と提言した上で、「市民にとって必要な情報の中にはもちろん、政党や政治家にとって、都合の悪い情報もあるわけですよね。それが伝えられなくなっていしまうと、情報を受け取る側の市民全体にもつながるんだ」と、情報統制が市民の「知る権利」を侵害する危険性を指摘した。

日下部正樹キャスターは、この事態についてさらに深く言及。「非国民という言葉は、権力側が気に入らない人物を排除する際に使う最強の言葉ですよね。戦前、警察や軍が『非国民だ』と言っては、権力に異を唱える人を次々、拘束、弾圧しました。人々は非国民呼ばわりをされるのを恐れて、口をつぐむか、他人を密告する。そんな社会になってしまった」と歴史的な背景に触れつつ、「参政党の初鹿野議員は元警察官ですよね。その彼が、公然と非国民と言い放ち、支持者が歓声をあげた。無視できないことだと思う」と警鐘を鳴らした。さらに、政党による恣意的な記者選別について、「公の政党が恣意(しい)的に記者を選別することの意味、これをまず記者の皆さんに考えて頂きたい。記者は権力者の広報ではありません」と批判した。

参政党とメディアの応酬、そして今後の課題

参政党は、神奈川新聞記者の入場を拒否したことについて、7月24日に公式サイトで経緯を説明。「同記者は、7月20日に投開票された第27回参議院選挙の選挙期間中、『しばき隊』と呼ばれる団体と行動を共にし、本党の街頭演説で大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していたことが確認されています」とし、「記者会見は、本党の考えや立場を広く伝えるための大切な場であり、妨害や混乱があっては本来の目的を果たせません」と、取材拒否の正当性を主張した。これに対し、神奈川新聞は「異論を封じようとするメディアの選別に強く抗議する」と反論している。

また、参政党は今回の「報道特集」の内容に対しても抗議しており、7月12日の放送をめぐって「選挙報道として著しく公平性・中立性を欠く内容が放送された」と主張している。これに対し「報道特集」側は「報道には、有権者に判断材料を示すという高い公共性、公益性があると考えております」と反論。参政党側はこの対応を不服として、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に申し立てを行うことを表明するなど、両者の対立は深まる一方だ。

この一連の出来事は、政党がメディアを選別し、都合の悪い情報を排除しようとする動きが、日本の民主主義社会と報道の自由にとって重大な脅威となり得ることを示している。市民が多様な情報にアクセスし、自らの判断で政治的選択を行うためには、独立した公正なメディアの存在が不可欠である。今回の参政党とメディアの対立は、今後も日本の言論空間において重要な議論の的となるだろう。


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