ドナルド・トランプ前米大統領の再選が現実味を帯びる中、日米同盟は新たな不確実性に直面しています。米国際開発局（USAID）でアジア担当長官補を務めたマイケル・シファー氏は、毎日新聞への寄稿で、この極めて重要な同盟関係の将来について深く掘り下げ、現在の状況が抱える課題と、それに対応するための根本的な再考の必要性を訴えています。
米政権による高関税措置を巡る日米間の激しい交渉は、一時的な緊張緩和をもたらしたものの、1980年代の貿易摩擦や同盟関係のひずみを想起させるものでした。トランプ氏の「米国第一主義」は同盟関係を軽視し、ウクライナ情勢への一貫性のない対応や対外援助の削減を通じて、米国の国際的なリーダーシップへの信頼を揺るがしています。こうした動きは、技術革新、環境危機、人口動態の変化、そして大国間競争といった多重の圧力によって、戦後の国際秩序の基盤に亀裂が生じる中で、日米同盟の戦略的安定性を弱体化させていると指摘されています。
日本は米国にとって最も信頼できる同盟国の一つであり、その経済力、高度な技術力、そしてより積極的になった防衛政策は、インド太平洋地域の戦略的課題、特に挑発を続ける中国への対応において、米国と協力する独自の立場を確立しています。米国も日本も、これらの複雑な課題に単独で立ち向かうことは困難であり、両国の目的が一致していなければ、さらにその困難は増大するでしょう。
マイケル・シファー元国際開発局長官補の肖像。日米同盟の将来とインド太平洋地域の安全保障に関する議論の文脈で、彼の専門性と提言の重要性を示す。
同盟の根本的再考と日本の新たな役割
シファー氏は、過去の誓約を再確認するだけではもはや不十分だと強調します。急速に変化する地政学的な環境に対応するには、経済、技術、外交、軍事のあらゆる分野で同盟関係を根本から再考することが不可欠です。
特に中国の台頭は、冷戦時代の日米同盟のモデルでは対応できない現実を突きつけています。この現実を認識している日本は、防衛予算を倍増させ、他国のミサイル発射拠点などを攻撃する「反撃能力」（敵基地攻撃能力）を整備するなど、歴史的な防衛力強化に着手しています。これは、日本が単なる従属的なパートナーではなく、米国と対等に地域の安定を担うという心構えの表れです。米国もまた、「米国第一主義」から脱却し、戦略的な想像力をもってこの新たな現実に適応し、日本とは防衛計画、技術革新、経済などの分野で統合を深めるべきであると提言されています。
安全保障と経済における具体的な協力分野
日米同盟は、即座にかつ断固たる行動を要する不安定な安全保障環境に直面しています。中国は沖縄県・尖閣諸島や台湾周辺で、強引な軍事行動や武力行使に至らない手段で脅威を与える「グレーゾーン作戦」を繰り返し、北朝鮮は執拗（しつよう）に核・ミサイル開発を進めています。こうした状況に対処するため、日米は人工知能（AI）などの次世代防衛技術の共同開発や、全ての領域における部隊の相互運用性の確保が不可欠です。
経済面では、21世紀におけるルールの形成に重点を置く必要があります。デジタル貿易の枠組み整備や、サプライチェーン（供給網）の強化を先頭に立って進めるべきです。また、インド太平洋地域におけるインフラ整備、海洋安全保障、気候変動対策への共同投資も極めて重要となります。これは、対外援助の削減を見直し、開発を戦略的手段として位置づけることを意味します。日米の緊密な協力によって、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に代わる、より魅力的で持続可能な選択肢を地域に提示することができるでしょう。
21世紀における日米同盟の展望
シファー氏は、日米同盟が単なる安全保障の枠組みを超え、インド太平洋地域における共通戦略、イノベーション、そしてガバナンスのためのプラットフォームとなるべきだと結んでいます。この半年間は、日本と米国にとって困難な時期でしたが、我々はこの同盟を21世紀に真の変革をもたらすものとして構築する貴重なチャンスを有しています。
参考文献
- Michael Schiffer. 毎日新聞への寄稿 (2024年3月14日掲載内容に基づく).
- ロイター通信 (2024年3月14日). マイケル・シファー氏の写真提供.
