“逆襲”の石破総理、未遂に終わるか?「三木おろし」と「石破おろし」三つの共通点

「石破さんは本当に辞める気がないようだね。参ったな」――両院議員懇談会が開かれた2025年7月28日(月)当日、自民党幹部の一人が口にした言葉は、いまの自民党の混迷ぶりを如実に物語っている。筆者はこの状況を“石破の逆襲”が始まったと直感している。石破茂総理が語った「一切のわたくしごころ(私心)を持たないで、国民のため国の将来のために身を滅してやるんだと、自分を滅してやるんだということなんじゃないでしょうか」という言葉は、退陣要求に対する強い決意の表れに他ならない。現在の「石破おろし」の動きは、かつての中曽根政権下で未遂に終わった「三木おろし」の試みと、驚くべき共通点を持つ。この歴史の反復から、石破総理の今後の政権運営、そして自民党の内部抗争の行方を読み解く鍵が見えてくるだろう。

石破総理に対する退陣圧力の背景

石破総理に対する退陣圧力は、内閣支持率の低迷や、党内最大派閥との軋轢、重要法案の難航など、複数の要因が絡み合って表面化した。特に、2025年夏の参議院選挙で自民党が振るわなかったこと、あるいは重要な政策課題で明確な成果が出せていないという党内の不満が鬱積していると見られる。総裁選で石破氏を支持しなかった勢力からは、政権運営に対する批判が噴出し、「石破降ろし」の動きが加速した。両院議員懇談会は、そうした党内の声を集約し、総理に責任を問う場となるはずだったが、石破総理の固い決意の前に、その目論見は完全に外れた形だ。永田町では、この強気の姿勢に驚きと困惑が広がっている。

歴史が示す「三木おろし」の全貌

1970年代半ば、田中角栄前総理の金脈問題で揺れる中、クリーンな政治を掲げて登場したのが三木武夫総理だった。しかし、党内の主流派からは「ミキは党人にあらず」と疎まれ、ロッキード事件の真相究明に執念を燃やす三木総理の姿勢は、自民党の「金権政治」に慣れ親しんだ議員たちにとっては脅威でしかなかった。このため、大平正芳、福田赳夫といった実力者たちが結集し、「三木おろし」と呼ばれる退陣運動を展開した。この運動は、党内で内閣不信任決議案を提出しようとするなど、激しい権力闘争に発展したが、最終的には三木総理が解散権を盾に抵抗し、任期満了まで政権を維持することに成功した。その背景には、国民からの高い支持があったことも見逃せない。

石破総理がカムチャッカ半島沖地震について記者団の質問に答える様子。政権運営への強い意志を示す時期と重なる。石破総理がカムチャッカ半島沖地震について記者団の質問に答える様子。政権運営への強い意志を示す時期と重なる。

「三木おろし」と「石破おろし」に共通する三つの要素

今回の「石破おろし」の動きと、かつての「三木おろし」には、歴史の興味深い反復が見られる。以下にその三つの共通点を挙げる。

1. 「異分子」と見なされる総理への反発

三木武夫総理は、党内では「異端児」と見なされ、そのクリーンな政治姿勢や徹底した政治倫理の追及は、むしろ党内主流派からの反発を招いた。同様に、石破茂総理もまた、長らく党内で非主流派の立場にあり、その政策志向や発言は、時に党内最大派閥や一部の保守層から距離を置かれてきた経緯がある。彼らは、党内の「和」を乱す存在、あるいは党の論理に必ずしも従わない「異分子」として見られがちだ。この「異分子」に対するアレルギー反応が、退陣要求の根底にある。

2. 「金権政治」または「停滞感」への国民の不満と、総理の「清廉性」アピール

三木総理の時代は、田中角栄政権下の「金権政治」に対する国民の強い不満が存在した。三木総理は、ロッキード事件の真相究明を通じて、国民の政治不信に応えようとした。一方、石破総理の現在の状況は、必ずしも「金権政治」が直接的な原因ではないが、国民の間には閉塞感や政治に対する「停滞感」が漂っている。石破総理は、自らの言葉で「一切のわたくしごころ(私心)を持たない」と強調し、国民のためという大義を掲げることで、自身の「清廉性」や「国民目線」をアピールし、退陣要求を跳ね返そうとしている。これは、国民の不満の矛先をかわし、支持を得ようとする点で三木総理と共通する戦略だ。

3. 総理自身の「辞めない」という強い意志と権力への執着

三木総理が「解散権」を背景に「辞めない」という強い意志を貫いたように、石破総理もまた、両院議員懇談会で自らの口から「身を滅してやる」とまで言い切り、退陣要求に応じない姿勢を明確にした。この「辞めない」という固い決意は、単なる権力への執着だけでなく、自らの政治信条や政策を実現したいという強い使命感に裏打ちされている場合が多い。しかし、党内から見れば、それは「強硬姿勢」や「独善的」と映り、さらなる摩擦を生む原因にもなり得る。総理の揺るぎない覚悟が、党内対立を激化させるか、あるいは「石破おろし」を頓挫させるか、その行方は総理自身の政治手腕にかかっていると言える。

石破総理の「逆襲」と今後の展望

石破総理の「逆襲」は、退陣要求に対する強い拒否だけでなく、自身の掲げる政策の実現に向けた積極的な動きとして現れる可能性が高い。例えば、国民に直接語りかける機会を増やし、世論の支持を固める戦略や、党内の実力者たちとの個別交渉を通じて、自らの支持基盤を再構築する動きも考えられる。また、衆議院解散という伝家の宝刀をちらつかせることで、党内の反主流派を牽制する可能性もゼロではない。

しかし、歴史が示すように、党内の多数派から「おろし」の動きが起きる場合、総理が政権を維持するためには、国民からの圧倒的な支持か、あるいは党内での新たな協力関係を構築することが不可欠となる。現在の自民党の混迷は、党のガバナンス能力そのものが問われる事態であり、石破総理の対応次第で、政権の安定性が大きく左右されるだろう。

結論

今回の「石破おろし」の動きは、単なる派閥間の権力闘争に留まらず、自民党の歴史に度々繰り返されてきた「異分子」に対する反発、そして国民の政治に対する期待と不満の表れと捉えることができる。三木武夫総理が強固な意志で退陣要求を退けたように、石破茂総理もまた、「私心を持たず、国民のため」という大義を掲げ、政権維持に強い意欲を示している。

この「逆襲」が成功し、石破総理が政権を安定させるかどうかは、今後の国民からの支持率の推移、そして党内での調整能力にかかっている。自民党がこの混迷を乗り越え、国民の信頼を取り戻せるか、それともさらなる分裂の危機に陥るのか、日本の政治情勢はまさに正念場を迎えている。永田町の動向から目が離せない。


参考文献:

  • Yahoo!ニュース. (2025年7月31日). “逆襲”の石破総理、未遂に終わった「三木おろし」と「石破おろし」3つの共通点. Source link
  • 首相官邸HP. (2025年7月30日). 首相動静.