50代を迎え、老後の生活資金について不安を感じる夫婦は少なくありません。特に「退職金が出ない」と告げられた場合や、「貯蓄が1000万円しかない」といった状況では、老後の資金計画に大きな疑問符がつくでしょう。本記事では、多くの人が抱える老後資金の不安に対し、老後の主な収入源となる年金の種類と平均受給額、そして老後世帯の平均支出額を詳しく解説し、1000万円の貯蓄で老後が本当に安泰なのかを考察します。
老後の主要な収入源:公的年金と私的年金
定年退職後、給与収入がなくなることで、多くの人が年金を主要な収入源とします。年金は大きく分けて、国が運営する「公的年金」と、証券会社、保険会社、銀行などが運営する「私的年金」の2種類があります。私的年金への加入は任意ですが、公的年金は条件を満たせば加入が義務付けられます。公的年金の中でも、特に多くの人が受給するのは国民年金と厚生年金です。
国民年金の受給額と仕組み
国民年金は「老齢基礎年金」とも呼ばれ、日本国内に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入対象です。受給資格期間が10年以上あれば、原則として65歳から年金を受け取ることができます。この受給資格期間とは、保険料を納付した期間と保険料の免除期間を合算したものです。
厚生労働省年金局が公表した「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、令和5年度における国民年金の平均受給額は月額5万7700円でした。国民年金の支給額には満額が設定されており、経済状況などを考慮して毎年改定されます。例えば、令和7年度の満額は6万9308円、令和6年度は6万8000円、令和5年度は6万6250円でした。国民年金の支給額は、その年の満額と保険料を納付した月数に基づいて算出され、40年間(480ヶ月)保険料を納付していれば満額を受給できます。
厚生年金の受給額と特徴
厚生年金は「老齢厚生年金」とも呼ばれ、会社員や公務員などが加入する年金制度です。国民年金と同様に原則65歳から受給が可能です。専業主婦(夫)や自営業者などは厚生年金に加入・受給できませんが、国民年金の受給資格を満たし、厚生年金への加入期間があれば受給できます。
厚生年金の支給額は、加入期間中の収入額と加入期間の月数によって決まります。収入額が多いほど支給額も増えるため、人によって受給額に大きな差が生じることがあります。厚生労働省の同資料によると、国民年金を含めた厚生年金の平均受給額は月額14万7360円です。
老後世帯の平均的な生活費はいくら?
老後の生活設計において、年金収入と並んで重要なのが生活費の把握です。総務省統計局の「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均消費支出は月額約25万3313円とされています。この内訳には食費、住居費、光熱・水道費、医療費、交通・通信費などが含まれます。年金の平均受給額と比較すると、多くの世帯で毎月不足が生じる現実が見えてきます。
1000万円の貯蓄は老後を支えられるか?年金と支出のギャップ
上記のデータに基づくと、夫婦二人の平均年金収入が合計で約20万円程度(夫が厚生年金、妻が国民年金の場合の概算)と仮定すると、平均的な消費支出(約25万円)に対して毎月約5万円の赤字が発生することになります。この赤字を貯蓄で補填する場合、年間で約60万円が必要となり、1000万円の貯蓄は約16〜17年で底をつく計算になります。
日本の定年退職者における1000万円以上の貯蓄保有割合を示すグラフ
もし退職金が全く出ない場合、この1000万円は老後の生活費だけでなく、住宅ローンの完済や予期せぬ大きな出費(医療費、介護費用、家の修繕費など)にも備えなければならないため、さらに厳しい状況となる可能性があります。ゆとりある老後生活を送るためには、平均的な生活費よりもさらに多くの費用が必要となることも考慮すべきでしょう。
老後資金の不安を解消するための対策
老後資金の不安を解消するためには、年金だけに頼らず、複数の対策を講じることが重要です。現役世代のうちからiDeCoやつみたてNISAのような税制優遇のある資産運用を始め、計画的に資産形成を進めることが有効です。また、定年後も健康であれば、再雇用制度を利用したり、パートタイムで働くことで収入源を確保し、貯蓄の目減りを抑えることができます。家計の見直しを行い、無駄な支出を削減することも、老後資金を長く維持するための基本的な対策となります。
結論
50代で退職金が出ず、貯蓄が1000万円という状況は、老後の生活において確かに不安材料となり得ます。平均的な年金収入と生活費を比較すると、多くの世帯で貯蓄からの取り崩しが必要となる現実があります。しかし、この現状を早期に認識し、計画的な資産形成、定年後の働き方の検討、そして家計の見直しを行うことで、老後資金の不安を軽減し、より安定した老後生活を送るための道筋が見えてくるでしょう。老後の資金計画は、早めに具体的に考えることが何よりも大切です。
参考文献
- 厚生労働省年金局: 「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局: 「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」