トランプ氏、オバマ氏偽動画拡散の裏側:エプスタイン事件と米国政治の陰謀論

米国では、故ジェフリー・エプスタイン元被告を巡る関心が一向に薄れることなく、その影響は政界にも波及しています。特に、ドナルド・トランプ前米大統領が、バラク・オバマ元大統領が生成AIによって操作された偽動画で逮捕されるという衝撃的な映像を自身のSNSで拡散したことは、大きな波紋を呼んでいます。さらに、トランプ氏自身がパトカーを運転し、他の車両と共にオバマ氏の車を追跡する加工画像をリポストするなど、その行動は多くの憶測を呼んでいます。こうした一連の行動の背後には、トランプ氏の戦略的な意図と、米国の政治情勢における陰謀論の根深さが見え隠れします。本記事では、これらの動きの背景にあるトランプ氏の基本的な政治戦略と、彼が企図する「新たな陰謀論」について詳細に分析します。

米国政治における情報戦と陰謀論の複雑さを示すイメージ。トランプ氏とエプスタイン事件、オバマ氏に関する議論の深層。米国政治における情報戦と陰謀論の複雑さを示すイメージ。トランプ氏とエプスタイン事件、オバマ氏に関する議論の深層。

トランプ氏の支持基盤と情報拡散戦略の核心

トランプ氏の政治戦略の根底には、「岩盤支持層が強固であれば、政権を維持できる」という強い信念があります。彼らはトランプ氏の言葉を強く信奉しており、説得工作の主要な対象です。この盤石な支持層の中には、白人至上主義者を含む層が少なからず存在し、彼らの支持はトランプ氏にとって不可欠です。

また、トランプ氏は過去に有罪判決を受け、大統領退任後に量刑が言い渡される予定となっています。このような自身の法的立場を背景に、彼はオバマ氏を「犯罪者」の立場に追い込みたいという強い意図を持っています。これは、自身の問題から国民の目を逸らし、相対的に自身の潔白や正当性を主張するための戦略であると推測されます。

「ロシア疑惑」から「国家反逆罪」へ:新たな陰謀論の構築

エプスタイン事件を巡る疑惑はトランプ氏にとって都合が悪く、これを封じ込めたいという焦りが、新たな情報操作の動機となっています。トランプ氏は、2016年米大統領選挙へのロシア介入疑惑、いわゆる「ロシア疑惑」が、実はオバマ氏によって捏造されたものであり、トランプ氏勝利の正当性を損ねたものだと激しく非難しています。彼は自身のSNSに「犯罪者は大きな代償を払わなければならない」と投稿し、この主張を拡散しました。

さらにトランプ氏は、オバマ氏が米国民を欺き、トランプ政権を覆すためにクーデターを画策したため、この行為は「国家反逆罪」に相当すると結論付けています。そして、米国民はエプスタイン事件よりも、この「事実」に焦点を当てるべきだと主張することで、不利な議論から注意を逸らそうと試みています。この構図は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件で、反トランプ派とトランプ派が「国家反逆罪」か「愛国者の過激な行動」かという対立で語り合った状況と類似しています。

エプスタイン事件を巡る世論とトランプ氏の課題

エプスタイン事件を巡っては、トランプ氏を熱狂的に支持するMAGA(Make America Great Again)運動の支持者の間でも、エプスタインの死は自殺ではなく他殺であるという陰謀論や、トランプ政権が少女を含む性的人身売買に関するエプスタインの「顧客リスト」を隠しているといった陰謀論が根強く存在しています。

英誌エコノミストと調査会社ユーガブが2023年7月25日から28日に実施した全国共同世論調査の結果は、トランプ氏にとって不都合な実態を示しています。調査によれば、「政府はエプスタイン事件に関連する証拠を隠していると思うか」という質問に対し、全体で67%が「はい」と回答しました。さらに、2024年米大統領選挙でトランプ氏に投票した有権者に限っても、50%が「はい」と答えています。

また、トランプ氏とエプスタイン氏の関係について尋ねたところ、全体で43%が「非常に近い友達」、15%が「友達であるが近くない」と回答し、合計で58%が二人の関係を「友達」と認識していました。「知人」以上と回答した人々は82%に上ります。トランプ氏がエプスタイン氏に親しく語りかける映像が繰り返しメディアで流されていることも、こうした国民の認識を形成する一因となっています。

「陰謀論VS.新たな陰謀論」:焦点をずらす戦略

これらの世論調査結果は、トランプ氏にとって不利な数字と言わざるを得ません。そこでトランプ氏は、エプスタイン事件に関する陰謀論に対抗するため、全く新たな陰謀論を創り上げました。それが、「ロシア疑惑」はオバマ氏によるでっち上げであるという主張です。

トランプ氏の狙いは明確です。彼は「陰謀論VS.新たな陰謀論」という対立構図を描き出すことで、MAGA支持者たちの目をエプスタイン事件に関連する陰謀論から、オバマ氏に関する新たな陰謀論へと逸らそうとしているのです。これは、自身の政治的立場を守り、支持基盤を維持するための、計算された情報戦術であると言えるでしょう。現代の米国政治において、フェイクニュースや陰謀論がいかに強力な武器となり得るかを如実に示しています。

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