東京拘置所は、死刑執行を待つ死刑囚たちが収監されている場所です。その内部で行われている彼らの知られざる生活ぶりについて、2013年に「週刊新潮」誌上で身の回りの世話を担当した元受刑者(衛生夫)が証言しています。本稿では、一般にはほとんど明かされることのない、死刑囚たちの特異な日常、特に問題行動を起こした者や高齢の収監者の事例を通して、その実態と維持にかかる社会的な費用に焦点を当てます。彼らがどのような日々を過ごし、どのような課題を抱えているのか、その詳細をひも解いていきます。
元厚生次官襲撃事件の小泉死刑囚:8ヶ月の絶食と高額な栄養剤
元厚生事務次官宅連続襲撃事件(死者2名)の小泉毅死刑囚(当時51歳)は、拘置所側がその扱いに苦慮した一人でした。彼は保健所で殺された犬の仇討ちを目的として厚生次官宅を襲撃したと自供し、その特異な動機が社会に衝撃を与えました。さいたま拘置支所から移送されてきた当初から、彼は問題を起こしていたと言います。フロア内の「要注意人物」に指定されていた彼は、房内への物品持ち込みが制限され、この制限を不服として「一切何も食わない」と宣言。実際に8ヶ月間もの間、食事を拒否し続けました。
拘置所側も最初の1週間は様子を見ていましたが、事態を重く見たのか、その後は栄養剤を1日5回ほど与える措置を取りました。この栄養剤は1本あたり500円もすると言われ、小泉死刑囚が食事を再開したのは翌年の正月になってからでした。一人の担当官と良好な関係を築き、その説得によってようやく食べ始めたとされています。犬を殺されただけで凶悪事件を起こすほど、彼の思い込みは激しいものであったことがうかがえます。そして、8ヶ月間に及ぶ栄養剤の費用は、全て国民の税金から支払われたことになります。
東京拘置所内の死刑囚居室の様子
90代の高齢死刑囚:老人ホームのような快適生活と年間600万円の費用
死刑囚一人あたりの年間維持費は、およそ600万円にも上るという試算があります。その中で、2013年当時91歳でありながら、今もなお東京拘置所に収監されている男性死刑囚の事例は注目に値します。彼は埼玉県内で2人の女性を殺害して逮捕されて以来、すでに30年以上もの長期にわたり拘置所での生活を送っています。
彼は現在、車椅子での生活を送っていますが、耳が遠い以外は「元気そのもの」と元衛生夫は証言します。食事も残すことなく摂取し、たまに食べきれない分は、自分で購入したごま塩をかけておにぎりにして食べるほどの食欲です。体重も70キロ程度を維持しており、元衛生夫が知る90代の人物の中では「間違いなく一番元気な人」であったと言います。薬もきちんと支給され、移動時には職員が車椅子を押してくれるなど、その生活はまるで「老人ホームで暮らしているようなもの」だという声もあります。死刑囚は月に4回ビデオを借りて鑑賞することができますが、この高齢死刑囚はアニメ『エヴァンゲリオン』を借りてみたものの、「よくわからん」とわずか10分ほどで鑑賞を止めてしまったという逸話も残されています。
死刑囚の日常と社会が抱える課題
東京拘置所における死刑囚たちの生活は、小泉死刑囚のように管理に手こずるケースもあれば、高齢ながら比較的健康な生活を送る者もいるなど、多様な実態が浮き彫りになります。彼らの維持には莫大な税金が投入されており、その費用対効果や、長期収監に伴う人道的な側面、そして社会が彼らをどのように扱うべきかという根本的な問いを私たちに突きつけます。元受刑者による内部証言は、普段知られることのない拘置所の実情を明らかにし、死刑制度や刑務所のあり方について、さらなる議論を促す貴重な情報と言えるでしょう。
参考資料
- 週刊新潮 2013年2月7日号
- Source link