いま、シリコンバレーから世界各地へと、「ストイシズム(ストア哲学)」の教えが急速に広がりを見せています。情報過多な現代において、他人との比較に悩み、心の平穏を失いがちな私たちにとって、この古代哲学は新たな指針となるでしょう。特に日本では、ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳の『STOIC 人生の教科書ストイシズム』が刊行され、その実践的な教えが注目されています。本記事では、ストイシズムがいかにして私たちの心のあり方を変え、日々の生活に前向きな変化をもたらすのかを探ります。
思考を整理し、自己と向き合う人物。古代哲学「ストイシズム」が現代にもたらす心の平静。
現代社会における「比較」の苦悩と自己肯定感
SNSの普及や多様な価値観が交錯する現代において、私たちは無意識のうちに自分と他人を比較し、劣等感を抱いてしまうことがあります。特に、人と交流する場では、子育てと学びを両立させスキルアップに励む人、本業の傍ら副業で実績を重ねる人など、輝かしい側面を持つ人々に出会う機会も少なくありません。そうした中で、「自分は何も生産的なことをしていない」「怠けているのではないか」と感じ、自己肯定感が揺らぐ経験は、多くの人が抱える共通の悩みと言えるでしょう。しかし、純粋な感動や感謝の気持ちを伝えること、そして他者を貶めない態度は、それ自体が価値ある人間関係を築く上で重要な要素です。
マルクス・アウレリウスの教え:内なる平和への道
ローマ帝国の哲人皇帝、マルクス・アウレリウスは、その著書『自省録』の中で、私たちに心の平静をもたらす普遍的な教えを残しています。
「いま持っている意見が理性にもとづくもので、いま行っていることが社会のためになることで、いまの心の持ちようが起きることすべてに満足するものであれば、それで十分だ。」(マルクス・アウレリウス『自省録』より)
この言葉は、私たちを自己否定のループから解放し、いまこの瞬間に集中することの重要性を教えてくれます。ストイシズムの核心は、「自分にはコントロールできないこと」と「コントロールできること」を明確に区別し、後者にのみ意識を向けるという点にあります。
ストイシズム実践:自分にできること、そして継続の力
自分に足りない部分ばかりに目を向け、落ち込むことは誰にでもあります。しかし、過ぎ去ったことをいつまでも悔やみ続けても、状況は好転しません。ストイシズムは、そうした感情に囚われるのではなく、反省すべき点は反省しつつも、それ以上に「いま自分に何ができるか」に焦点を当てることを促します。
小さな行動であっても、自分のペースで着実に積み重ねていくこと。これが、少しずつでも確実に前へと進むための鍵となります。日々の地道な努力は、時間が経つにつれて目に見える成果となり、自信へと繋がります。行動し続けた人と、自己否定に囚われ立ち止まってしまった人とでは、考え方、選択肢、そして人生への向き合い方が、年を追うごとに大きく異なってくるでしょう。
他人の言動や成功に惑わされることなく、自身の内なる理性と向き合い、誠実に日々を過ごすこと。ストイシズムの教えは、私たち一人ひとりが着実に自己成長を遂げ、真の心の豊かさを手に入れるための強力な指針となるはずです。
参考文献
- ブリタニー・ポラット 著, 花塚恵 訳 (ダイヤモンド社書籍編集局). 『STOIC 人生の教科書ストイシズム』. ダイヤモンド社.