千葉県船橋市の閑静な住宅街で、76歳の父親が同居する52歳の長男を殺害しようと背中を複数回刺す事件が発生しました。事件は8月3日午後0時50分頃、集合住宅の一室で発生し、父親はその場で殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されました。警察の調べに対し、父親は「長男から日常的に暴力を受けていた」と供述しており、送検時には父親の左目に殴られたような大きなアザが確認されています。この事件は、高齢者と家族間の深刻な問題を浮き彫りにしています。
事件の概要と捜査状況
逮捕されたのは船橋市高野台の4階建て集合住宅の2階に住む無職、古谷隆信容疑者(76)です。8月3日午後1時1分頃、古谷容疑者自身から「長男を包丁で刺した」と110番通報がありました。急行した千葉県船橋東警察署の署員が現場で血を流して倒れている長男を発見し、古谷容疑者が凶器の包丁を所持していたことから、殺人未遂の容疑で現行犯逮捕しました。
登記簿謄本によると、古谷容疑者は1991年に約70平方メートルの自宅を購入していました。警察の調べでは、口論の末、座っていた長男の背後から刃渡り約15センチメートルの包丁で複数回刺したとされています。長男は重傷を負い意識不明の状態で病院に搬送されましたが、その後意識を回復し、命に別条はないとのことです。
古谷容疑者は容疑を認め、「長男からの暴力に耐えられなくなった」と供述しています。警察関係者は、古谷容疑者の左目のアザは長男による暴力が原因である可能性が高いと見ており、今後は長男への暴力についても事情を聞き、立件も視野に入れた捜査が進められています。
送検される古谷隆信容疑者。左目には長男からの暴力によるものと見られる大きなアザがある。
近隣住民が語る家族の実態
事件当日の様子について、同じ集合住宅に住む50代の女性は「午前10時ごろ、外出する際に『てめえ!』という大きな声が聞こえました。いつものように長男がまた怒鳴っているのだろうと思い、通報はしませんでした」と語っています。午後2時頃に帰宅すると規制線が張られており、近所の人から事件を知らされたといいます。
複数の住民によると、古谷容疑者は少なくともこの10年間、妻と長男の3人で暮らしていました。古谷容疑者と長男の関係が悪かったことは、この集合住宅ではよく知られていたとのことです。母親は3〜4年前に体調を崩し、介護サービスを利用していたとされています。その頃から、長男が古谷容疑者に対し「殺すぞ」「てめえ!」などと叫ぶ声が頻繁に聞こえるようになったと住民は話します。
事件現場となった千葉県船橋市高野台の集合住宅。古谷容疑者が居住し、玄関口には青い車椅子とスロープが見える。
前述の50代女性は、「喧嘩なのか、一方的にキレているのか分からないけれども、怒鳴り声は週に2回くらい、夕方から夜にかけてがほとんどでした。長男が叫んでいる一方で、古谷さんの声は全く聞いていません」と続けました。彼女は初めて大声を聞いた時は通報すべきか迷ったものの、「助けて」とは聞こえなかったため、大丈夫だと判断したと言います。それ以降は「またいつものか」と聞き流すようになっていたそうです。長男はいつも家にいて、仕事はしていなかったのではないかと推測されています。
また、古谷容疑者については、「ここ数年は見たことがない。家にこもっていたのかな。だからニュースで見た父の顔があんなにアザだらけになっていることは知らなかった」と、近隣住民でさえ、日常的な暴力の実態や古谷容疑者の負傷に気づいていなかったことが明らかになりました。
まとめ
今回の事件は、高齢者が家族内での暴力に苦しみ、それが深刻な結果を招く可能性を示しています。古谷容疑者の供述や警察の捜査状況から、長男からの日常的な暴力が事件の背景にあったことが強く示唆されています。長男は命に別条ないものの、今後は彼自身の暴力行為についても法的責任が問われる可能性があります。家族内の問題が閉ざされた空間で進行し、近隣住民でさえその深刻さに気づかないケースがあることを示しており、地域社会や支援機関による見守りの重要性が改めて浮き彫りになりました。
参考文献
- 76歳の父親が52歳息子を切りつける (Yahoo!ニュース, 2025年8月12日掲載)