大阪・関西万博の夢洲(ゆめしま)駅で発生した大阪メトロ中央線の停電による運転見合わせは、開催中の万博会場に数万人の来場者が滞留し、大規模な帰宅困難を引き起こしました。唯一の鉄道アクセスが寸断されたことで、多くの人々が夜を明かす事態となり、緊急時の情報不足や危機管理体制に対する厳しい批判が噴出しています。
大阪メトロ中央線、突然の停電で運転見合わせ
大阪メトロによると、8月13日午後9時28分ごろ、中央線がコスモスクエア―大阪港駅間で停電に見舞われ、その影響で夢洲―長田駅間での運転を見合わせました。夢洲駅は大阪・関西万博会場の東ゲートに最も近い駅であり、中央線は万博会場への唯一の鉄道路線として機能しています。この突然の運転見合わせにより、午後10時10分に夢洲駅と一つ隣のコスモスクエア駅の間で折り返し運転が開始されたものの、夢洲駅から東ゲートにかけて、大勢の万博来場者が滞留する事態となりました。
夢洲駅周辺で足止めされ、混乱する大阪・関西万博の来場者たち。
帰宅困難者が会場内で夜を明かす状況と運営側の対応
運転見合わせを受け、大阪メトロは夢洲駅からコスモスクエア駅へ向かい、ニュートラムに乗り継いで四つ橋線の西梅田駅まで行くルートについて、終電を延長して運行しました。万博会場内でも、「乗車が完了するまで(延長)運行することを確認した」というアナウンスが流れました。しかし、夢洲駅では、中央線の全面的な運転再開を待つ人々が改札口付近に座り込んだり、寝そべったりする姿が見られました。
会場内では、帰宅を諦めた来場者が多数とどまり、多くの人が大屋根リングの下にあるベンチに寝そべるなどして夜を明かしました。大阪ヘルスケアパビリオンでは、一夜を明かそうとする人々の行列ができ、施設の開放が決定されました。ドイツパビリオンでは菓子が配布され、オランダパビリオンではエントランス部分が開放され、ミッフィー像と記念撮影をする来場者の長い列ができました。会場内の飲食店もフロアを開放し、来場者は空調の利いた室内で待機することができました。
会場では、「夢洲とコスモスクエアの間で間もなくピストン輸送が再開するが、輸送量が限られ時間がかかる」として、大屋根リングの下へ移動して待機するようアナウンスが繰り返し流れました。しかし、水や食料などがどこで配布されるかといった具体的な情報はほとんど提供されず、大屋根リングの下では子どもを抱いて座って休む親の姿も見られました。
大阪メトロ中央線の運転見合わせにより、夢洲駅前に留まり、帰宅を待つ多くの人々。
来場者からの情報提供と危機管理への厳しい声
来場者からは、交通状況や滞在する人々への支援状況などについての情報不足を批判する声が多く上がりました。西ゲートでタクシーを待っていた埼玉県の50代の会社員男性は、「夢洲駅に入る列は誘導もなく、すし詰め状態。暑くて気分が悪くなり倒れている人もいた。スタッフらしき人が『西ゲートなら出られるんじゃないか』と話していたのを聞いて来た。もっと情報を来場者に教えてほしい。危機管理が全くなっていない」と怒りをあらわにしました。
兵庫県から来た60代の男性は、「まさかこんなところで帰宅難民になると思わなかった。タクシーやバスならなんとかなるかと思い西ゲートに来たが、警備員に『今から並んでも朝になる』と言われ、あきらめて会場で寝ることにした。とにかくアナウンスがもっとほしかった」と、困惑した様子で語りました。
ドイツから観光で来日した大学生レアンダ・ロスバさん(19)は、新大阪駅近くのホテルにたどり着けるかどうか判断がつかず、予約のキャンセルもできない状態でした。「日本語を勉強しているが、アナウンスが速くてわかりにくかった。英語アナウンスも少なく、情報が不足している」と、外国人観光客ならではの苦悩を訴えました。
都内から訪れた70歳代の女性は、「小さい子どもや高齢者がいるので、倒れる人が出ないか心配。会期が始まったばかりでもないのに、水やいすを配ったり、運転再開見込みのアナウンスをしたりする臨機応変な対応がされていないのはなぜなのか」と、疲れた様子で疑問を投げかけました。
救急要請が相次ぎ、熱中症など33件の搬送
大阪市消防局によると、14日午前1時までに計33件の救急要請が立て続けにありました。いずれも万博会場付近からの通報で、熱中症や混雑による気分不良などを訴えるものが大半を占めていました。お盆期間中の万博会場は連日多くの来場者で賑わっており、12日には16万5千人が来場し、13日も多数の人々が訪れていました。
今回の大阪メトロ中央線停電による万博来場者の大規模滞留は、今後の大規模イベントにおける交通インフラの脆弱性と緊急時の危機管理体制の課題を浮き彫りにしました。特に、多数の来場者が訪れるイベントでは、緊急時の情報提供の迅速性、多言語対応、そして水や食料の確保、避難場所の確保といった来場者への具体的な支援策の徹底が不可欠です。この経験は、将来のイベント運営において、より堅牢な計画と臨機応変な対応能力を構築するための重要な教訓となるでしょう。
参考文献:
朝日新聞社