石破首相「退陣騒動」の深層:与野党の複雑な思惑と政局の行方

7月23日、毎日新聞と読売新聞が報じた「石破茂首相退陣」のニュースは、日本政治に大きな波紋を投げかけました。石破首相には、これまでの自民党政治家とは異なり、地位に固執せず、自らの責任を潔く認めるタイプの政治家というイメージがあったため、その決断は「石破氏らしい見事な引き際」と感じた人も少なくありませんでした。しかし、石破首相がこの退陣報道を強く否定したことで、状況は一転し、報道は「誤報」ではないかとの見方が強まりました。この経緯については、7月29日配信の関連コラムでもお伝えした通りです。

政治評論家・古賀茂明氏。石破首相の去就問題について深い分析を提供。政治評論家・古賀茂明氏。石破首相の去就問題について深い分析を提供。

「石破おろし」の波と予想外の「石破応援団」

退陣報道から約3週間が経過した現在、石破首相の去就をめぐる状況はさらに複雑さを増しています。自民党内では、依然として「石破おろし」の動きが非常に高く、続投を危ぶむ声が聞かれます。しかし、旧安倍派などの裏金問題や旧統一教会との関係が取り沙汰される「薄汚い政治家」たちがその中心にいることが明らかになると、予想外の「石破応援団」が登場しました。自民党支持者だけでなく、立憲民主党や共産党などの野党支持者でさえ、「石破首相は辞任するな」という声を上げ始めたのです。これは、汚職問題に揺れる政治状況下で、比較的クリーンなイメージを持つ石破氏に対する国民の期待の表れとも言えます。

自民党内での対立と総裁選前倒し論の現状

両院議員懇談会と総会の動向

7月28日に開催された自民党両院議員懇談会では、石破首相の参院選大敗の責任を厳しく追及する声が多数を占めました。しかし、懇談会には意思決定権がないため、石破首相はそのまま続投となりました。その後、8月8日に開かれた両院議員総会でも石破批判が吹き荒れたものの、最終的には総裁選を前倒しするかどうかを党総裁選挙管理委員会で意思確認することが決まっただけで、具体的な結論は先送りにされ、この先の見通しは依然として不透明です。

「石破おろし」を躊躇させる背景

裏金問題に関与した議員たちが、露骨に「石破おろし」の動きを進めれば、国民からの批判の声が高まり、自民党の支持率がさらに低下する可能性が懸念されています。これは、来たるべき総選挙において、反石破派の議員たちの当選が危うくなるかもしれないという危機感を党内に生じさせています。このため、公然と「石破下ろし」の署名を行う議員はそれほど多くないという見方もできます。議員たちは、世論の動向を強く意識せざるを得ない状況にあります。

今後の政局を占う転換点と二つのシナリオ

参院選大敗総括と森山幹事長の動向

次の大きな節目は、8月20日から開催されるTICAD(アフリカ開発会議)という重要な外交舞台を終えた後、29日までに行われる参院選大敗を検証する自民党の総括委員会の報告書取りまとめです。この報告書の内容や、その後の党幹部の動きが政局の行方を大きく左右すると見られています。

一つのシナリオとしては、この総括委員会による報告書取りまとめの機に、森山裕幹事長が辞意を表明し、慰留できない場合、石破首相自らが辞任するか、あるいは辞任せずとも、総裁選前倒しを求める勢力が勢いを増し、最終的に総裁選が前倒しになり、石破氏が引きずりおろされるという展開です。

世論の反発がもたらす別の展開

もう一つのシナリオとして、もし「石破おろし」に対する国民の批判がさらに高まれば、総裁選前倒し論は勢いを失う可能性があります。仮に森山氏が辞任したとしても、副総裁に就任するなどして引き続き党内の差配を行う体制が維持され、結果として石破首相が続投するという話も聞こえてきます。この場合、国民の「清廉な政治」を求める声が、党内の力学に影響を与えることになります。

石破政権が直面する綱渡りの状況

もちろん、石破首相が続投できたとしても、自公連立政権は現在、衆参両院で過半数を割り込んでおり、非常に不安定な状況にあります。野党の要求をのまなければ、いつ内閣不信任案が提出されてもおかしくない状況です。石破首相は、党内外からの様々な圧力の中で、まさに「綱渡り」を続けなければならない厳しい局面を迎えています。裏金問題や支持率低迷の中で、国民の信頼を取り戻し、政権を安定させることができるか、その手腕が問われる日々が続くでしょう。

参考資料