大阪・関西万博「帰れない万博」に交通トラブル、建築家・藤本壮介氏の“感動”投稿が波紋

2025年8月13日、開幕から4カ月を迎えた大阪・関西万博で大規模な交通トラブルが発生し、万博会場が「帰れない万博」と化す事態に見舞われた。吉村洋文大阪府知事が当初掲げた「並ばない万博」の計画が事実上白紙となる中、今度は来場者を襲ったのは「帰れない」という予期せぬ困難だった。この緊急事態を受け、X(旧Twitter)では「オールナイト万博」がトレンド入りする一方、会場デザインプロデューサーの建築家、藤本壮介氏の“感動”を綴った投稿が、運営の姿勢を問う激しい批判の的となっている。

大阪・関西万博を襲った「交通トラブル」と「帰宅困難」の発生

8月13日午後9時半ごろ、大阪・関西万博会場への主要な鉄道アクセス手段である大阪メトロ中央線で送電線トラブルが発生し、運転が見合わせられた。この影響で、翌14日午前5時半ごろに運転が再開されるまで、一時約3万人の来場者が会場周辺に足止めされる事態となった。最終的に、帰宅困難者が会場を退場できたのは午前7時前という長時間にわたる混乱だった。

この緊急事態を受け、万博会場は急遽、電車の運行再開を待つ来場者の待機場所として開放された。会場で一夜を過ごすことになった人々の中には、Xに思い思いの状況を投稿する者も現れ、「オールナイト万博」というハッシュタグが一時トレンド入りした。一部では、会場内に設置されたカメラに向かってダンスを披露するなど、ポジティブに状況を楽しむ若者の姿も報じられた。また、会場や各パビリオンのスタッフが飲食物を配布するなど、サポート体制がとられたという“美談”も相次ぎ報告された。

藤本壮介氏の「感動」投稿と波紋を呼んだ背景

トラブルが収束した14日昼ごろ、万博最大の目玉である「大屋根リング」の設計を手がけ、万博会場デザインプロデューサーを務める建築家の藤本壮介氏(54)がXを更新した。藤本氏は、「昨夜のオールナイト万博、お疲れ様でした」と来場者や関係者を労うメッセージを投稿。

大阪・関西万博会場で一夜を明かす来場者たちの様子。交通トラブルにより、多くの人々が会場に足止めされた「オールナイト万博」の瞬間を捉えている。大阪・関西万博会場で一夜を明かす来場者たちの様子。交通トラブルにより、多くの人々が会場に足止めされた「オールナイト万博」の瞬間を捉えている。

その中で、「大変な状況にもかかわらず忍耐強く過ごしてくださり、また時にポジティブに楽しく過ごしてくださった来場者の皆さん、ありがとうございました」と感謝の意を表明。さらに、「パビリオンの解放や飲食の提供、臨時便の増発、そのほかもろもろ、難しい状況の中で柔軟に対応下さった各パビリオンの関係者の皆さん、警備の皆さん、そのほか全ての関係者の皆さん、ありがとうございました」と、サポートにあたった関係者への謝意も述べた。

投稿の結びには、「あらためて、今回の万博は、人が作っている、ということを実感しました」「国境や立場を超えて、人が人と共に人のための素晴らしい場を作る、ということを実感しました。会場からの朝日の写真、沁み入りました」と、この困難な状況から得た“感動”を綴った。この投稿は14日夜時点で5000件近い「いいね」を集めたものの、リプライや引用リポストでは藤本氏への痛烈な批判が殺到することとなった。

運営責任者への厳しい批判と「人災」の指摘

藤本氏の投稿に対して、SNS上では「これ、嫌味か嫌がらせとしか思えない人居るだろうな。万博側の責任者なんやから先にご迷惑をおかけしましたとか言わんとあかんやろ」「ポジティブに過ごせた人は一握りでほとんどの人は災害に遭ったようなもんだろう。よく呑気なこと言えるな」「さすがに運営、設計関係者が言うことではなくない?制度設計的に危惧されてたことが起きたわけだし反省が先じゃないの」「感動してる場合か。そんな調子だとまたトラブル起きるよ」といった厳しい声が相次いだ。

万博への交通面の脆弱性が招いた「オールナイト万博」の光景を、運営サイドに近い立場の藤本氏が“感動”と表現したことに、強い反発が巻き起こった形だ。もちろん、一夜を好機と捉え、楽しんだ来場者もいたことは事実であり、彼らにとっては忘れがたい特別な思い出となったかもしれない。しかし、一方で、体調不良で高齢者を含む36人の男女が救急搬送されており、当夜は30度近くの熱帯夜であったことから、熱中症の疑いがあるケースも報告されている。自動販売機の飲み物が売り切れるなど、辛い経験を強いられた人も多数存在した。

これは、インフラ整備の不備が招いた「人災」と指摘されており、運営サイドが来場者の苦しい経験に対し、まず謝罪の言葉を述べるべきだったという意見が多数を占める。同様に、吉村知事も「オールナイト万博」を楽しむ投稿をリポストしたが、これに対しても厳しい声が殺到していた。藤本氏の場合、あくまで建築面のプロデューサーという立場ではあるが、このような状況下での不用意な投稿であったことは否めず、運営全体の責任を問う声に繋がってしまったと言えるだろう。

会期終了まで2カ月を切る中、大阪・関西万博協会は、来場者の安全確保と快適な体験提供のため、今回の事態を重く受け止め、交通インフラの再発防止策を徹底的に講じることが強く求められている。


参考文献