かつてと比較して、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科などが人気となり、若者が〝ラク〟をしているという見方も確かにあるだろう。だが、現場で働く若手の声に耳を傾けると、医師としての志や想いとは裏腹に、初志貫徹できない様々な事情や葛藤が浮かび上がる。数字には表れない、政策と実態の乖離、若手医師や医療界に染みついた職業観や価値観とはどのようなものなのか。リアルな声を聞いた。
やりがいはあり、この仕事は好きだけど……
Aさん 33歳・男性
脳神経外科 都内病院勤務
父親が脳の病気を患っていたこともあり、幼少期から脳の分野の医師を目指していた。地元である九州の大学を卒業し、研修病院を選ぶ段階で上京した。専門性の高い分野においては、都心の病院の方が、取り扱う疾患の種類が多く、難易度の高い手術も経験できるからだ。
やりがいがあり、この仕事が好きだと感じるが、他の科と比較すると、その労働時間や心理的負担と対価が見合っているのか疑問に思うこともある。緊急性の高い疾患を扱う科では、救急対応や手術時間の長さが勤務時間に直結するため、「働き方改革」といわれても、実務の時間を調整しようがない。自らの技術を磨くために、時にはサービス残業をすることもあるため、後輩がこの姿を見て、どう思っているのか、不安に感じることがある。
結婚や出産など、ライフイベントのたびに直面する悩み
Bさん 32歳・女性
腎臓内科 地方病院勤務
地元の医大に「地域枠」で入学した。受験生だった当時、地元も好きだった私は、地域に貢献でき、奨学金をもらえ、さらに研修病院が指定されていることで、マッチングも不要になる地域枠は〝いい制度〟だと考えていた。だが、現実は違った。
義務年限の途中で結婚、出産をしたが、育休や時短勤務によって義務年限が延長されることは想定外で、事前にこうした詳しい説明はなかった。地域貢献の使命は十分に理解しつつも、ライフイベントのたびに、キャリアと生活を天秤にかけることになった。また、夫の勤務先の都合や、両親による育児サポートの観点で居住地を選ばざるを得ず、中心地から離れた病院への通勤に1時間半以上かかることも大きな負担になっている。