東京都港区、全国初の「プレクラス制度」導入へ:小1プロブレム解消と教育の質向上を目指す

東京都港区は、2025年4月から区立小学校の新1年生を対象に、都内初の「プレクラス制度」を導入する。この画期的な取り組みは、入学当初は仮のクラスを編成し、児童一人ひとりの特性や発達段階をきめ細かく見極めた上で、5月に正式な「本クラス」を決定するというものだ。この制度の提唱者であり、2021年度に自身の勤務校で初めて導入した港区立小中一貫教育校お台場学園港陽小学校・中学校校長の吉野達雄氏は、「この制度にはメリットしかない」と断言しており、その効果と導入の背景に注目が集まっている。

小1プロブレムの深刻化と教育現場の課題

近年、「小1プロブレム」という言葉が広く認知されるようになった。これは、幼稚園や保育園から小学校生活への移行期において、多くの子どもたちが環境の変化に順応できず、落ち着きを欠いたり、教員の話を聞かなかったり、授業中に勝手に歩き回ったりといった行動を示す問題である。こうした状況は、教員、特に経験の浅い教員にとって大きな負担となり、学級運営に苦慮するケースが少なくない。

吉野校長もまた、「小1プロブレム」の出現以来、小学校生活への適応に課題を抱える子どもたちの存在を強く認識していたという。教員たちが「1年生のクラスは大変だ」と話す声を耳にし、経験の少ない教員が困難なクラスの担任になった際に、うまく対応できずに悩む姿も見てきた経験がある。校長として学級編成の難しさを改めて痛感し、保育園や幼稚園からの情報だけでは不十分だと感じるようになった。支援が必要な子どもが増加する中、「机上の情報だけではなく、教員自らが児童一人ひとりの特性や発達段階を確認した上で、最適な学級編成を行いたい」という強い思いが募っていた。

東京都港区が導入する「プレクラス制度」のイメージ東京都港区が導入する「プレクラス制度」のイメージ

「プレクラス制度」の誕生:吉野校長の着想と実践

こうした課題意識から、吉野校長は4月に仮クラスを編成し、各児童の特性を観察しながら5月に正式な「本クラス」を決定する「プレクラス制度」のアイデアを着想した。この制度は、複雑なシステムを必要とせず、新たな予算もかからない「タダ施策」であったことも、導入を後押しする要因となった。吉野校長は当時校長を務めていた港区立白金小学校で、2021年度からこの制度を試験的に導入した。

初年度の取り組みから手応えを感じた吉野校長は、港区の校長会で「プレクラス制度」を紹介し、その効果を共有した。「自分の学校でも導入してみたい」という問い合わせは多数寄せられたものの、翌年度に実際に導入したのは赤坂小学校の1校のみにとどまったという。吉野校長は、「ベテラン教員からは『わざわざクラス替えをしなくても、自分なら対応できる』という反対意見が多く、導入に至らないケースが多かった」と当時の状況を振り返る。

プレクラス制度の利点を語る吉野達雄校長プレクラス制度の利点を語る吉野達雄校長

成功への道のり:抵抗と理解、そして区全体への拡大

しかし、「プレクラス制度」は保護者からの評判が非常に高く、区議会でも「なぜこのような良い制度を区全体に広げないのか」といった質問が出るようになった。少子高齢化が進み、若手の教員が増加する現状において、学級運営を教員個人の能力にのみ依存するのではなく、組織としてより安定した学校運営を可能にする仕組みの構築が急務となっていた。

こうした複数の背景が重なり、各学校長の裁量に委ねるのではなく、港区として「プレクラス制度」を区内全小学校に導入する方針が決定されたのである。この制度は、児童のより良い学校生活への適応を促し、教員の負担を軽減し、ひいては学級全体の学習環境の質を高めるための重要な一歩となることが期待されている。

結論

港区が導入する「プレクラス制度」は、「小1プロブレム」という長年の課題に対し、教育現場の実情に即した具体的な解決策を提示するものである。児童の個性や発達段階を十分に考慮した学級編成は、子どもたちの学校生活への円滑な適応を促し、教員がより教育活動に集中できる環境を整備する上で極めて有効だ。この都内初の取り組みが、日本の教育現場における新たなスタンダードとなり、子どもたちが安心して学び、成長できる社会の実現に貢献することが強く期待される。


参考文献: