東大生の隠れた学歴格差:親非大卒の「第1世代」が直面する就職の壁と高学歴再生産の実態

かつて「東大に入れば人生の勝ち組」とされた時代は、終わりを迎えているのかもしれません。近年、東京大学(東大)の学生を取り巻く環境に、密かに進行する「隠れた学歴格差」が指摘されています。特に、両親が大学を卒業していない「大学第1世代」の東大生たちが、就職活動や学生生活において予想外の困難に直面している実態が、近藤千洋氏による『「東大卒」の研究――データからみる学歴エリート』などの研究から明らかになってきました。本記事では、最新の調査データを基に、日本における高学歴の固定化と、それがもたらす教育格差の深刻な現実を深く掘り下げます。

学業に励む学生の様子。東大生の学歴格差問題に関連学業に励む学生の様子。東大生の学歴格差問題に関連

東大における「第1世代」の現状と減少傾向:親の学歴が与える影響

東京大学では、両親が共に4年制大学を卒業していない「大学第1世代」の学生が年々減少する傾向にあります。本田由紀氏が2022年11月から2023年1月にかけて実施した東大卒6万人を対象とした調査(回答者2437名)によると、最も若い1991年以降生まれの世代では、東大生に占める「第1世代」の割合はわずか13%に過ぎません。この傾向が続けば、現在の現役東大生では10%を下回る可能性も指摘されています。

この数字は、一見すると親世代の大学進学率の上昇に伴う自然な減少に見えるかもしれません。しかし、日本の4年制大学進学率が50%を超えたのは2009年以降であり、1991年以降生まれの東大生の親世代(1961年〜70年生まれ)が18歳を迎えた1980年代の進学率は、わずか25%程度でした。この全国的な進学率と比較すると、東大生の「第1世代」の少なさは極めて不均衡であり、特定の層に東大進学が集中している状況を示唆しています。

他の国内大学と比較しても、この偏りは顕著です。2020年の全国19大学の調査では、両親非大卒の学生比率は、国立下位大学で約52%、私立下位大学で約41%、国立上位大学で約35%、私立上位大学で約29%でした(注1)。上位大学ほど「第1世代」が少ない傾向はあるものの、「国立最上位大学」である東大の13%という数値は、他を圧倒する低さであり、その学歴格差の根深さを浮き彫りにしています。

東大生に顕著な「高学歴再生産」の構造:エリート大学出身の親世代

東大生の親の学歴に目を向けると、「高学歴の固定化」とも言える衝撃的な実態が浮かび上がってきます。調査によると、東大生の親の42%が旧帝国大学、一橋大学、東京工業大学、神戸大学、早稲田大学、慶應義塾大学、医学部医学科、あるいは海外大学といった「銘柄大学」のいずれかを卒業しています(注2)。さらに驚くべきことに、そのうち約15%は東大の卒業生であることが判明しています。これは「高学歴再生産」が強力に機能している証拠であり、親の教育背景が子の学歴に強く影響している構造が明らかです。

このように、親が高学歴である東大生と、両親が大学を卒業していない「第1世代」の東大生との間には、生まれ育ちの大きなギャップが存在します。親がエリート大学出身である場合、教育環境、情報アクセス、経済的支援など、さまざまな面で子が優位に立つことが多く、これが学歴格差を再生産する要因となっていると考えられます。

日本の学歴格差は国際比較でも深刻か?米国エリート大学との比較

この「大学第1世代」がエリート大学に少ないという傾向は、日本特有のものではありません。学歴格差が深刻とされる米国でも、同様の傾向が見られます。例えば、プリンストン大学では約17%、イエール大学では約18%、ハーバード大学では約20%、スタンフォード大学では約21%の学生が「第1世代」であると報告されています(注3)。

しかし、これらの米国を代表するエリート大学と比較しても、東大の「第1世代」比率(13%)はさらに低い水準にあります。この国際比較は、日本における「高学歴の固定化」が、学歴格差が顕著な米国ですら凌駕するほど深刻な状況にある可能性を示唆しています。このデータは、単なる教育機会の不平等を超え、社会全体の流動性や公平性にも影響を及ぼす、根深い問題として捉える必要があるでしょう。

結論:東大にみる学歴社会の課題と未来への提言

本記事で明らかになった東大生の「隠れた学歴格差」は、現代日本社会が抱える教育と階層の問題を如実に物語っています。「親非大卒」の「第1世代」が直面する就職の壁、そして親が高学歴であるほど子が東大へ進学しやすい「高学歴再生産」の構造は、学歴が個人の努力だけでなく、生まれ育った環境に大きく左右される現実を浮き彫りにします。

東大という日本の最高学府においてすらこのような学歴格差が深く根付いていることは、社会全体の公平性や、真の能力主義の実現に対する深刻な課題を突きつけています。今後、教育機会の均等化や多様な背景を持つ学生への支援を強化し、社会の流動性を高めるための具体的な政策立案と、その実効性のある運用が求められるでしょう。

参考資料

(注1)妹尾麻美「格差社会における大学と大学生――大学種別に着目して」小川豊武・妹尾麻美・木村絵里子・牧野智和編『「最近の大学生」の社会学――2020年代学生文化としての再帰的ライフスタイル』ナカニシヤ出版、2024年、67〜81頁。
(注2)なお、いずれの大学についても、前身校および大学院の出身者を含みます。また、父母の出身学校名の回答は任意でしたので、ここでは本質問の回答者に占める比率を示しています。くわえて、父母の出身学校名に回答を求める際、学部名の記入までは積極的に要求していなかったため、医学部医学科の出身者は実際にはもっと多いことが推察されます。
(注3)IVY COACH ホームページ「What is a First Generation College Student?」[2024年9月30日取得])。