2024年8月20日夜、兵庫県神戸市のマンションで、住人である片山恵さん(24歳)がナイフで刺され死亡するという衝撃的な事件が発生しました。この事件の容疑者として、東京都新宿区在住の谷本将志容疑者(35歳)が逮捕されましたが、容疑者は片山さんについて「全く知らない人」と供述していると報じられています。オートロック式のマンションのエレベーター内で、見知らぬ人物によって命を奪われるという今回の事件は、多くの人々に大きな不安と驚きを与えました。日々の生活の中で、このような不測の事態から私たち自身や大切な人を守るためには、どのような対策が可能なのでしょうか。
神戸エレベーター刺殺事件の概要と「共連れ侵入」の脅威
報道によると、谷本容疑者は片山さんの勤務先付近から自宅マンションまで、約50分間にわたり同じ電車に乗るなどして尾行していたとされています。そして、オートロックマンションの入り口では、片山さんがオートロックを解錠してマンション内に入る際に、その直後を追う形で「共連れ」と呼ばれる手口で侵入。さらにエレベーターにまで同乗し、そこで片山さんを後ろから羽交い締めにしてナイフを突き立てた、とされています。
神奈川県警の元刑事であり犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、この事件の背景について推測を交えながら解説します。「まだ詳細が不明なためあくまでも推測ですが、谷本容疑者が『殺意を持っていたかわからない』と供述している点や、マンション住民が『男女がもめている悲鳴がエレベーター内から聞こえた』と110番通報している状況から、性的暴行を目的とした侵入の可能性が高いと思われます。エレベーター内で被害者を脅迫し、そのまま部屋に連れて行こうと計画していたものの、騒がれたために刺した可能性が考えられます。谷本容疑者は神戸に10年以上勤務していた経緯があり、土地勘があったでしょう」。
オートロックマンションのエレベーター内で発生した悲劇を表すイメージ画像
オートロックシステムは防犯対策として広く普及していますが、今回の事件が示すように、住人の後を追って侵入する「共連れ」には、そのセキュリティシステムも無力化されてしまうという課題があります。見知らぬ人物が背後にいることに気づかず、うっかりドアを開けてしまうリスクは常に潜んでいます。この「共連れ侵入」という手口の危険性を深く認識し、個々人が適切な防犯意識を持つことが極めて重要です。
犯罪ジャーナリストが語る!「尾行」を回避し身を守るためのシミュレーション
小川氏は、このようなリスクを未然に防ぐための具体的なシミュレーションの重要性を強調します。「不審者に後をつけられていると感じた際、人は突然のことで頭が真っ白になり、適切な行動が取れなくなりがちです。そのため、あらかじめ『もし尾行されたらどうするか』という状況を想定しておくことが非常に重要です」。
具体的な対策として、小川氏は以下の点を挙げます。
- 大通りを利用する: 駅から自宅までの経路で、ショートカット目的で細い路地を選ぶのではなく、人目が多く明るい大通りを歩くことを心がけましょう。
- 周囲に助けを求める: 近くに友人や家族が住んでいる場合は、すぐに電話で連絡を取り、その場所へ向かうのも良いでしょう。
- 「目・音・光」を活用する: 犯罪者は「人目」「大きな音」「明るい光」を嫌います。コンビニエンスストアのような明るく防犯カメラのある場所に駆け込むことは非常に有効です。第三者の目に触れることで、不審者は犯行をためらう可能性が高まります。
- 防犯ブザーの活用: 大声で助けを求めることが難しい状況でも、防犯ブザーは大きな音で周囲に危険を知らせ、相手をひるませる効果が期待できます。
防犯グッズの選び方と注意点
防犯グッズの選択にも注意が必要です。小川氏は「防犯用の催涙スプレーなどを携帯することは、かえって軽犯罪法に触れてしまう可能性があるので推奨できません」と警告します。もし、どうしても緊急時の対抗策として何かを持ち歩きたい場合は、女性であれば普段バッグに入れているヘアスプレーや殺虫剤など、勢いよく噴射できるものが一時的に相手をひるませる効果を持つかもしれない、と示唆します。しかし、緊急時にそれらを取り出して使用する余裕があるかは、別の問題として残ります。
「気づく」ことの重要性:日常における防犯意識
根本的な問題として、尾行に気づくことができるかどうかが挙げられます。小川氏は「不審者に狙われているという意識がないと、なかなか尾行には気づけません」と指摘します。さらに、「自ら気づく機会を奪っている場合もあります。例えば、歩きスマホに夢中になっていたり、イヤホンで音楽を聴いていて周囲の音が聞こえなかったりすれば、他人が近づいてきても気づくことができません」と、現代のライフスタイルに潜む落とし穴についても警鐘を鳴らしています。
結び:一人ひとりの防犯意識と危機管理能力の向上を
神戸エレベーター刺殺事件は、オートロックマンションという「安全」と思われがちな場所でも、「共連れ侵入」という形でセキュリティが破られる危険性があることを改めて私たちに突きつけました。この悲劇から学ぶべきは、単に事件の恐ろしさだけでなく、私たち一人ひとりが日頃からどれだけ防犯意識を持ち、危機管理能力を高めていくかという点です。
今回ご紹介した犯罪ジャーナリストの小川泰平氏による具体的なアドバイスは、現代社会において身を守るための重要なヒントとなるでしょう。スマートフォンやイヤホンの使用を控えて周囲に意識を向ける、不審を感じたらすぐに安全な場所に避難する、防犯ブザーを携帯するなど、できることから実践し、自身と大切な人の安全を守るための行動を常に意識しておくことが求められます。
参考文献
- Yahoo!ニュース. (2024年8月26日). 神戸エレベーター刺殺事件、オートロックマンション「共連れ侵入」の恐怖. Source link
- デイリー新潮. (2025年8月26日). マンションに「共連れ侵入」された時“やってはいけない”対処法とは?. https://www.dailyshincho.jp/article/2025/08261700/?photo=2