不登校の子どもたちを追い込む「真の理由」:いじめ・学力だけではない背景

「まさか、自分の子どもが不登校になるなんて……」。文部科学省の調査によると、2023年度に全国の小中学生で不登校だった子どもの数は実に34万人を超え、過去最多を記録しました。この公式な数字に加え、「不登校のグレーゾーン」と呼ばれる学校に行きづらい状態にある子どもたちを含めると、その数はさらに数倍に上ると推測されています。一体、なぜこれほど多くの子どもたちが学校に行かなくなるのでしょうか。一般的に不登校のきっかけとして連想されがちな「いじめ」や「勉強ができない」といった理由だけでは語り尽くせない、より複雑な背景が浮上しています。本稿では、青年心理学の専門家である髙坂康雅氏の新著『不登校のあの子に起きていること』(筑摩書房)から一部を抜粋し、その「真の理由」に迫ります。

不登校の原因と聞くと、まず「いじめ」を思い浮かべる人は少なくありません。「いじめが原因で不登校になった」というストーリーはニュースなどでも大きく取り上げられ、非常に分かりやすい構図として認識されています。しかし、実際のところは、それほど単純ではありません。文部科学省が2020年に行った不登校の子どもに関する実態調査では、「最初に行きづらいと感じ始めたきっかけ」として「友達のこと(いやがらせやいじめがあった)」と回答した小中学生は、およそ25%程度でした。また、2022年に子どもの発達科学研究所が実施した調査でも、「いじめ被害」を不登校のきっかけ要因として挙げた子どもは26%程度に留まっています。このデータから、「いじめられて不登校になった」というケースは、実は全体の約4分の1に過ぎないことがわかります(もちろん、いじめが重大な問題であることに変わりはありません)。では、いじめ以外に子どもたちが学校に行けない、行きたくないと感じる理由は何なのでしょうか。

「いじめ」や「勉強」を上回る、不登校の主な要因とは

不登校の背景として、次に多く挙げられるのが「勉強」に関する要因です。学校は本来、学ぶ場であるため、勉強が理解できない、授業についていけない、と感じるようになると、学校生活自体が苦痛なものになり得ます。文部科学省の実態調査では、「勉強が分からない(授業がおもしろくなかった、成績がよくなかった、テストの点がよくなかったなど)」をきっかけに挙げた子どもが、小学生で22%、中学生で27.6%存在しました。子どもの発達科学研究所の調査でも、「宿題ができていない等」が50.0%、「成績の低下」が37.9%と、学力や学習への不安が不登校につながる重要な要素であることが示されています。

しかし、これらの「いじめ」や「勉強」といった理由を上回る、さらに深刻な不登校のきっかけが明らかになっています。子どもの発達科学研究所の調査で最も多かった要因は、「抑うつ・不安の訴え」で76.5%にも上りました。これに続き、「居眠り、朝起きられない、夜眠れない」(70.3%)、「体調不良の訴え」(68.9%)といった心身の不調も多く報告されています。文部科学省の調査でも、「身体の不調(学校に行こうとするとおなかが痛くなったなど)」や「生活リズムの乱れ(朝起きられなかったなど)」が、学校に行きづらいと感じ始めたきっかけとして上位に挙げられています。これらのデータは、子どもの内面的な苦悩や身体的なサインが、不登校の直接的な引き金となっている可能性を示唆しています。

不登校の子供が抱える孤独と不安。いじめや学力問題に隠された真の理由に迫る。不登校の子供が抱える孤独と不安。いじめや学力問題に隠された真の理由に迫る。

さらに近年では、インターネットやスマートフォン、オンラインゲームの普及も不登校の要因として深く関わっていると考えられています。子どもの発達科学研究所の調査では、42.3%が「ゲーム・スマホ依存、依存傾向」を選択しており、文部科学省の実態調査でも、不登校の小・中学生の約18%が「インターネット、ゲーム、動画視聴、SNSなどの影響(一度始めるとやめられなかった、学校に行くより楽しかったなど)」を理由として挙げています。デジタル環境が子どもたちの生活に深く根差す中で、その負の側面も不登校の複雑な要因の一つとなっているのです。

こうした様々な要因を見ると、不登校は子ども自身の心身の問題として捉えられがちです。しかし、例えば「抑うつ的な気分(気分が落ち込む)」になるとき、それは一体どのような状況で生じるのでしょうか。個人の問題として片付けられない、より広範な社会的・環境的要因も考慮に入れる必要があるでしょう。

結び

本稿で明らかになったように、不登校の理由は「いじめ」や「勉強」といった一般的なイメージに留まらず、子どもたちの心身の不調、生活リズムの乱れ、さらには現代社会に浸透したデジタルツールの影響など、極めて多岐にわたります。これらの複雑な要因を総合的に理解することなしには、不登校問題の根本的な解決には繋がりません。子どもたちが発するSOSのサインを見逃さず、個々の状況に応じた丁寧なサポート体制を構築していくことが、今後の社会に強く求められています。

参照元

Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/5478a9ac22a31c1e9c8e167ae3fee8aa5470b5a0