神戸「東山商店街」:令和に息づく昭和の熱気と人情のフォトルポ

神戸の三宮から地下鉄でわずか3駅、湊川公園駅のほど近くに広がる東山商店街は、洗練された港町神戸のイメージとは一線を画す、濃密な空気を放つ独特の空間です。初めて足を踏み入れる訪問者は、店主たちの威勢のいい呼び込みや、人々の熱気に圧倒されるかもしれません。しかし、そこには「昭和」という古き良き時代の魅力が、今なお脈々と息づいています。本稿では、そんな東山商店街の活気あふれる現状を、臨場感あふれるフォトルポ形式でお届けします。

都会の喧騒からタイムスリップ:湊川公園駅からの短い旅

異人館、南京町、ポートタワーといった観光名所が並び、「おしゃれな港町」として知られる神戸。しかし、その華やかな顔の裏側には、もう一つの「ディープな神戸」が存在します。三宮駅から神戸市営地下鉄に乗車し、わずか5分、3駅目の湊川公園駅で降りて徒歩約5分。合計10分足らずで、現代の「令和」から「昭和」へと時空を超えた旅を体験できる場所、それが東山商店街です。駅を降りるとすぐに、その独特の活気と熱気が五感を刺激し、日常とは異なる世界へと誘います。

威勢の良い呼び込み:活気あふれる商店街の日常

商店街に足を踏み入れると、まず耳に飛び込んでくるのは、鮮魚店の店主たちの力強い呼び込みの声です。例えば、一軒の魚屋では、通りかかる筆者に対し、「さあ、そこのカッコいいお兄ちゃん、今日、今、ついさっきお兄ちゃんのために釣ってきたばかりの魚やで。お兄ちゃんに食べてもらうために釣ってきた魚や。これ買わなんだら一生の恥やで。ええか、恥は心に耳と書く。魚屋の真心に耳傾けたってえや!」と、まるで語りかけるような、心温まる口上で客を誘います。

神戸・東山商店街の活気あるメインストリートの俯瞰。色とりどりの店が軒を連ね、買い物客で賑わい、昔ながらの商店街の雰囲気を伝える。神戸・東山商店街の活気あるメインストリートの俯瞰。色とりどりの店が軒を連ね、買い物客で賑わい、昔ながらの商店街の雰囲気を伝える。

その元気な声に思わず財布の紐が緩みそうになるのをぐっとこらえ、さらに奥へ進むと、別の魚屋からも同様に、「そこの綺麗なお姉さん、あんたやあんた。こっちやこっち。ほら、目が合うた! さあ、今日、お姉さんのために釣ってきた魚いっぱいやで。これ食べさせたらお家で待ってるご主人も喜ぶで。さあ買うてや!」と、客の目を捉えて話しかける声が聞こえてきます。こうした人間味あふれるコミュニケーションは、大手ショッピングモールやスーパーマーケットでは決して味わえない、東山商店街ならではの魅力であり、まさに「昭和レトロ」な雰囲気を色濃く残しています。

世代を超えた交流:鯛焼きと「あめゆ」が紡ぐ物語

商店街を歩いていると、「ママ、鯛焼き買うてえ。鯛焼き、鯛焼き――」と、母親にねだる子どもの甲高い声が聞こえてきました。東山商店街には、1個100円で買える鯛焼きを売る店がいくつかあります。しかし母親は、「あかんで、あかん。あんたさっきここ来る前に人口衛星饅頭食べたばっかりやろが!」と諭します。それでも子どもは食い下がり、「あめゆでもええで」「ママも飲みたいやろ」「あめゆ飲みたいわ」と、巧みに母親の購買意欲を刺激しようと必死です。

最終的に、「ああ、もうあんたには負けたわ! 明日、明日な、あめゆ買うてやるわ!」という母親の言葉で、子どもは大人しくなり、人混みの中へと消えていきました。ここで登場する「あめゆ」とは、生姜の絞り汁と水あめを湯で溶いた、関西で親しまれている伝統的な飲み物です。これを冷やしたものが「冷やしあめ」と呼ばれます。東山商店街では、1杯50円という手軽な価格で、ひしゃくでコップに汲んでくれる昔ながらのスタイルで提供されており、夏場にはかき氷やミックスジュースも同様のスタイルで楽しめます。これは、現代では珍しくなった、地域に根差した「地元グルメ」の文化が息づいている証拠です。

「絡み」から生まれる人情:商店街のユニークなコミュニケーション

さらに商店街の奥へと進むと、一見すると物騒な「諍い」の声が聞こえてきました。「人にぶつかっといて挨拶なしか」「やる気か」「俺がその気になったらお前なんかボコボコやぞ」――。声のする方に目をやると、海外ブランドのジャージのボトムスに光沢感のあるVネックTシャツ姿の、全身黒で統一された若い男性がいました。金髪のソフトモヒカンに太めの金のブレスレットを身につけた、見るからに強面な男性です。

ところが、その強面の男性は、「ああ、ごめん、ごめんやで。おじさんが強いんはわかってるから。俺が悪かった。ごめんやで」と、平身低頭に謝っていました。これに対し、「おじさん」と呼ばれた年配の男性は、「おう、わかっとったら、それでええんや――」と言い放つと、開襟襟の白シャツにスラックス姿の、どう見てもお爺さんであるその男性は、颯爽とシニアカーを駆って商店街を後にしました。後で聞くと、シニアカーのカゴには、東山商店街の名物の一つであるお好み焼きがたっぷり入った紙袋が積まれていたそうです。

この様子を傍から見ていた筆者と目が合った強面の若い男性は、「ここで会うたら、絡んでくる人やねん。まあ、強いんやろうな」と語りました。男性は子どもの頃からこの近隣に住み、商店街のパチンコ店によく遊びに来ているとのこと。どうやらこれは「諍い」などではなく、二人ならではの普段のコミュニケーションであり、地域住民の間に根付いた「人情」が生み出す、ユニークな交流の一コマだったのです。

結びに

神戸・東山商店街は、単なる買い物をする場所ではありません。そこは、令和の時代にあって、昭和の熱気、活気、そして何よりも人々の温かい交流である「人情」が色濃く残る、生きた「昭和レトロ」の博物館です。威勢のいい呼び込み、世代を超えたやり取り、そして一見すると驚くような独特のコミュニケーションは、訪れる人々に忘れかけていた日本の原風景を思い出させ、心地よい「懐かしい」感情を呼び起こします。観光地としての神戸とは異なる、もう一つの奥深い魅力に出会いたいなら、ぜひ一度、東山商店街の扉を開いてみてください。そこには、人々の笑顔と活気があふれる、真の日本の日常が息づいています。


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