8月27日、江藤拓・前農林水産大臣(65)が自民党の新組織「農業構造転換推進委員会」の委員長に就任しました。党農林部会などの合同会議で江藤氏は「農業団体や農水省と、どれだけ連携を取れるかが私の役目だ」と意欲を見せたものの、この人事は各方面で大きな波紋を呼んでいます。特に、コメの高騰に苦しむ国民感情を逆撫でするような過去の発言が再び注目され、自民党の世論との乖離が改めて浮き彫りになっています。
国民の怒りを買った「コメ発言」と世論の反発
江藤氏の委員長就任が波紋を呼ぶ最大の理由は、今年5月に佐賀市で開催された政治資金パーティーでの発言です。江藤氏は当時、「コメは買ったことがありません」「売るほどある、家の食品庫には」とスピーチし、コメ価格高騰に苦しむ国民の怒りを買いました。
SNS(X)上では、今回の人事を巡り「自民党の自浄能力の無さを露呈」「農家の苦しみもわからないやつがトップで自民も腐ってる」「米を買ったことがない人が重要な『米政策』を決定することになったんだね」といった批判的な投稿が圧倒的多数を占めています。この人事は、国民の感情や生活実感からかけ離れているという認識が強く示されていると言えるでしょう。
江藤拓・前農林水産大臣が自民党の「農業構造転換推進委員会」委員長に就任し、挨拶する様子。
専門家が指摘する自民党の「世論乖離」
政治アナリストの伊藤惇夫氏は、今回の江藤氏の委員長就任について「最初に聞いた時、冗談かと思いました」と語っています。伊藤氏は、最近の自民党が「世論と全く乖離してしまっています。ここまで世論に鈍感になってしまった自民党は見たことがない」と厳しく指摘します。
江藤氏の人事は、一部の自民党議員が石破茂首相(68)の「石破おろし」に固執する構図と共通しているとも言われています。8月26日に発表された産経新聞社とFNNの合同世論調査では、「石破首相は辞任すべきか」の質問に対し「辞任しなくていい」が51.9%と過半数に達しているにもかかわらず、反・石破グループの国会議員は総裁選の前倒しに奔走しており、多くの国民を呆れさせているのが現状です。
コメ視察中に店舗内を闊歩する小泉進次郎農水相。世襲議員問題にも言及される。
「情と理」の欠如が生む国民不信:世襲議員問題の根源
故後藤田正晴氏(1914〜2005)がかつて説いた「情と理」という言葉は、政治家が情だけ、理詰めだけでもいけないという教えです。伊藤氏は、江藤氏の人事を自民党の論理で読み解けば「まさに情を優先した人事」であり、「情だけの人事で理がないために国民が納得しない」と分析します。
さらに、この人事が現在の自民党が抱える根深い問題を象徴していると伊藤氏が指摘するのは、「世襲議員」の問題です。この記事に登場する江藤氏、石破首相、小泉進次郎農水相(44)は全員が世襲議員であり、自民党内に世襲議員がいかに多いかを示しています。
世襲議員の問題は多岐にわたりますが、その一つに「地元選挙区との関係が薄い」点が挙げられます。小学校から大学まで東京で過ごす世襲議員も珍しくなく、地盤と看板を「相続」しているため、選挙区を丁寧に回らなくても当選してしまう傾向があります。その結果、世論に鈍感であっても国会議員を続けられ、党の要職を歴任することが少なくありません。地元住民の声に耳を傾けない世襲議員が自民党で増え、幹部として党運営に関与するようになったことが、自民党の政策や人事が世論と乖離する大きな要因となっているのではないでしょうか。
江藤拓氏の異例の早期復帰は、自民党が直面する世論との乖離と、長年の構造問題である世襲議員の課題を浮き彫りにしています。国民の信頼を取り戻すためには、より透明性のある人事と、国民の声に真摯に耳を傾ける姿勢が求められています。
参考文献
- Yahoo!ニュース: 江藤拓氏のあまりにも早い“復活劇”
- 産経新聞社とFNNの合同世論調査
- 後藤田正晴氏の回想録『情と理』(講談社、1998年)