中国人富裕層の日本移住は経済に貢献しない?「経営・管理ビザ」の盲点と各国の政策比較

中国の政治的統制から逃れようとする多くの富裕層が日本への移住を検討していますが、彼らの流入が日本経済を押し上げる要因となるのかは疑問視されています。静岡大学の楊海英教授は、現在の日本の在留資格制度には多くの盲点があり、経済的な恩恵をもたらすどころか、管理上の課題を増大させる可能性を指摘しています。本稿では、日本の「経営・管理ビザ」の現状を分析し、諸外国の厳格な移民政策と比較することで、日本が直面する課題を深掘りします。

日本で働く外国人または移住者をイメージした画像日本で働く外国人または移住者をイメージした画像

わずか500万円で取得可能な「経営・管理ビザ」とは

中国人富裕層が日本への移住を強く望む背景には、日本の安定した社会保障制度への期待が大きく影響しています。特に注目されているのが、日本国内で会社を設立する際に取得できる「経営・管理ビザ」です。この在留資格は、外国人が日本で事業の経営や管理に従事するために設けられており、わずか500万円の資本金を用意すれば、ほぼ取得が可能とされています。この基準は国際的に見ても極めて緩やかであり、資格取得後は日本の社会保障制度への加入が認められ、その恩恵は家族にも適用されます。これにより、多くの中国人富裕層が日本への移住経路としてこのビザを活用しているのが現状です。

諸外国と比較する日本の「緩すぎる」移民政策

日本の「経営・管理ビザ」の条件の緩やかさは、諸外国の移民政策と比較すると一層顕著になります。各国は自国の経済や社会システムを守るため、明確な参入障壁を設けています。

アメリカの「ゴールドカード」制度:高額投資が必須

例えば、アメリカではトランプ政権下で導入された永住権と就労許可を一体化した「ゴールドカード」制度が存在します。この制度の取得には、500万ドル(現在のレートで約7億4600万円)という非常に高額な投資が義務付けられています。金額の妥当性については議論の余地があるものの、明確な投資基準を設けることで、質の高い移民の流入を促し、経済への貢献を期待する姿勢がうかがえます。

移民国家カナダも慎重なプログラム運用

移民国家として知られるカナダでさえ、制度運用には慎重さが貫かれています。例えば、「ケベック州投資家プログラム」では、200万カナダドル(約2億円)の純資産と、120万カナダドル(約1.3億円)の州指定投資が求められています。これは、単純な資金流入だけでなく、移民が経済的に自立し、地域経済に貢献できる能力を有しているかを重視する姿勢の表れと言えるでしょう。

日本は実質的に無制限な合法移住を許容か

これらの諸外国の事例と比較すると、日本は移民国家ではないにもかかわらず、資本金500万円という驚くほど低い基準で中国人富裕層の実質的な流入を認めてしまっています。この程度の金額は、彼らにとって取るに足らないものであり、すでに中華系の専門ブローカーが乱立し、この制度を利用したビジネスで荒稼ぎをしているという報道もあります。この制度は、もはや「抜け穴」として機能しており、日本側が管理・制御の主導権を失い、合法的な移住が実質的に無制限に近い形で許容されつつあるという指摘も少なくありません。このような状況は、日本経済への期待される好影響をもたらすどころか、社会的な歪みや管理上の困難を引き起こす可能性が高いと言えます。

結論:経済貢献への疑問と政策再考の必要性

日本の「経営・管理ビザ」は、比較的低いハードルで外国人の移住を可能にしていますが、それが真に日本経済の活性化に繋がるのか、楊海英教授は疑問を呈しています。諸外国が明確な投資額や資産要件を設けているのに対し、日本の制度は「抜け穴」として利用され、管理の主導権を失うリスクをはらんでいます。安易な移住政策が、長期的な視点で日本社会や経済にどのような影響を与えるのか、現状の制度を見直し、より実効性のある政策設計が喫緊の課題と言えるでしょう。

参考文献

  • 楊海英『中国共産党 歴史を書き換える技術』ワニブックス【PLUS】新書