人口減少と国内市場の縮小が続く現代において、外国人材との共生は日本社会にとって避けて通れない課題となっています。しかし、言葉や文化が異なる人々との共生は「きれいごと」だけでは済まされず、現場では様々な混乱や課題が生じています。人材マッチングを手掛ける中村大介氏の著書『日本人が知らない 外国人労働者のひみつ』は、こうした現場のリアルな実情と、外国人労働者との真の共生に向けたヒントを忖度なしで紹介しています。本記事では、特に日本における外国人差別というデリケートな問題に焦点を当て、その背景と解決策について深掘りしていきます。
日本で働く外国人労働者と日本人との共生を考えるイメージ
「外国人だから」の現実:衝撃的な経験と日常の差別
多くの外国人材が、日本での生活や仕事の中で「外国人だから」という理由による差別や偏見に直面しています。インドネシア人女性のケースでは、初めて来日し京都での生活を始めて間もない頃、散歩中に立ち寄った花屋で「何しに来たの」「あなたが来たからコロナが増えているんですよ」と高齢の女性に言われ、大きなショックを受けました。このような露骨な差別は稀かもしれませんが、「レジスタッフをしていたとき、名札を見て外国人だとわかって、違う列に移動した」(ベトナム人女性)といった、日常に潜む微細な差別や線引きは頻繁に報告されています。
ミャンマー人男性の中には「日本語でコミュニケーションができるか心配で、日本人が対応している列に行ってるのかもしれないし。僕はそれぐらいはあんまり気にしないですね」と語る人もいますが、このような行動が外国人材に与える心理的な影響は決して軽視できません。多くの外国人労働者たちは、こうした「?」と感じる出来事があっても「多分、外国人に慣れてないだけだ」と考えてやり過ごしているのが実情です。
世代間の意識差:過去の栄光がもたらす外国人材への偏見
外国人に対する日本人の態度には、世代間の大きな違いが見られます。特に年配の方々には、かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された日本の栄光の記憶が強く残っている傾向があります。中村氏の指摘によれば、経済大国となったことで生まれた「名誉白人」意識が、他のアジア諸国を軽視する傾向を強めている可能性があります。
特に、外国人と接触する機会が少ない地方在住の年配者においては、この古い感覚がより色濃く残っている場合が多く、若い世代では死語となっている外国人への差別呼称を平気で使うケースさえあります。これは、時代認識のずれが表面化したものであり、日本社会全体の国際化の遅れを示唆しています。正直なところ、一度形成されたご年配の方々の感性を今から変えることは非常に難しいでしょう。
迫り来る危機:選ばれない国になるリスクとその背景
しかし、外国人材とともに働く現役世代は、外国人を下に見るような感覚を絶対に持ち続けてはなりません。なぜなら、日本で働くことの金銭的なメリットは、急速に目減りしているからです。これは円安の影響だけでなく、世界経済の変化も大きく関わっています。例えば、現在日本で働く人が増えているインドネシアは、わずか20年後には日本を抜く経済大国になると予測されています。
このような時代の推移を把握せず、いまだに「上から目線」で外国人材に接しているようでは、日本は彼らに「選ばれない国」になってしまいます。特に、人手不足に悩む地方こそ外国人材を必要としているにもかかわらず、こうした意識の遅れが深刻な事態を招くことになります。残念ながら、いまだに「奴らは日本に来たがってるんだから大丈夫」「うちの会社に定着しないあいつらはおかしい」といった感覚で外国人雇用に臨む企業も少なくありません。このような古い考え方は、企業だけでなく日本社会全体の未来を危うくするものです。
真の共生へ:外国人材を「普通の人」として受け入れる視点
日本が外国人材に選ばれ、多文化共生社会を築いていくためには、意識改革が不可欠です。差別意識の克服はもちろんのこと、初めて外国人を雇う企業やこれまで外国人との接点が少なかった企業にありがちな「外国人だからといって構えすぎてしまう」という姿勢も見直す必要があります。
もちろん、文化の違いを理解し、配慮することは重要です。しかし、外国人材を「特別扱い」するのではなく、あくまで「普通の人」として接するという意識が最も大切です。異なる背景を持つ人々を尊重し、対等な立場でコミュニケーションを取ることで、真の相互理解と共生が実現します。この「普通の人」として受け入れる視点こそが、日本がグローバル社会で生き残り、持続的な発展を遂げるための鍵となるでしょう。
参考文献:
Daisuke Nakamura 著, 『日本人が知らない 外国人労働者のひみつ』より抜粋