東北のクマ被害、「コメ狙い」で住宅侵入が常態化か?専門家が語る「新たな局面」

近年、日本全国でクマによる人身被害が深刻化する中、特に東北地方では、その被害の様相がこれまでにない「新たな局面」を迎えている。従来、山間部での遭遇事故が主だったが、最近ではクマが人里、さらには住宅内にまで侵入し、人間に危害を加えるケースが相次いでいるのだ。専門家は、この行動の変化が「米」を狙ったものである可能性を指摘し、事態の深刻さを訴えている。

東北で相次ぐクマ被害、その「新たな局面」とは

岩手県北上市和賀町では、今年7月以降、クマに襲われて3人が命を落とすという痛ましい事件が発生。クマの出没は今も頻繁に報告され、市の担当者は「職員はクマへの対応でゆとりがなく、逼迫した状況」と語る。特に衝撃的だったのは、81歳の女性が自宅内でクマに襲われ亡くなった事例だ。日本ツキノワグマ研究所所長の米田一彦氏は、この事態を「東北におけるクマによる人身被害は、新たな局面に入った」と強く危惧している。クマが家の中にまで押し入り人を死に至らしめたケースは、1915年の「三毛別ヒグマ事件」(北海道苫前町、死者7人)のようなヒグマによる史上最悪の被害を除けば、ツキノワグマにおいては過去130年間確認されていなかったからである。

森の中で毛づくろいをするツキノワグマ。近年、人里での出没や米を狙った住宅侵入が増加している森の中で毛づくろいをするツキノワグマ。近年、人里での出没や米を狙った住宅侵入が増加している

クマが「米」を狙う?住宅侵入の背景と全国的な広がり

なぜクマは住宅に侵入するようになったのか。米田氏が最も注目するのは、「米」の存在だ。今年、東北各県では住宅に保管された米を狙ったとみられるクマの出没が多発している。以前から稲田の米を食べるクマはいたが、最近は住宅内に置かれた米を狙うケースが顕著に増加しているのだ。北上市和賀町では、クマの出没が始まった今年6月から10月にかけて、住宅やその敷地内の倉庫が繰り返し襲われ、保管されていた米が食べられた。クマが米を求めて住宅に接近し、侵入するようになれば、人身被害の可能性は飛躍的に高まる。このようなクマによる米の食害は、報道されているだけでも、隣接する西和賀町のほか、岩手県一関市、釜石市、秋田県鹿角市、宮城県仙台市、福島県会津坂下町など、東北各地で確認されている。米田氏は「田んぼで稲もみを食べるよりも、住宅に押し入ったほうが米を簡単に大量に食べられると覚えたクマが、米のありかを探している恐れがある」と警鐘を鳴らす。

東北地方で進行しているクマの住宅侵入、そして米を狙う行動の変化は、単なる野生動物の被害にとどまらず、人間社会との新たな摩擦を示唆している。これまでの常識が通用しない状況に対し、地域住民はもとより、行政機関や専門家による早急かつ効果的な対策が求められている。

参考文献