ユニークな研究に贈られることで世界的に知られるイグ・ノーベル賞ですが、「イロモノ」として片付けられがちな側面もあります。しかし、日本では2007年から連続して受賞者を輩出し、「常連国」としての地位を確立。今回は、その受賞者の一人、昭和伊南総合病院の堀内朗医師に焦点を当て、彼の革新的な大腸内視鏡研究と、イグ・ノーベル賞がもたらした人生の転機、そして社会への貢献について深掘りします。
イグノーベル賞のトロフィを手に笑顔を見せる堀内朗医師
ユーモアの裏に潜む真剣な研究:堀内医師の受賞論文
2018年、医学教育賞を受賞した堀内朗医師の研究は、彼自身が座位で大腸内視鏡検査を行い、その結果を論文にまとめたというものでした。授賞式では、内視鏡の管を持って実演する堀内医師の姿に、会場は「ライトハンド、レフトハンドプッシュ!プッシュ!」と大盛況。このユーモラスな発表の裏には、小児内視鏡医の育成を目的とした真剣な取り組みがありました。彼は2004年頃から細径スコープを導入し、座位での自己検査を試みましたが、体勢的な困難から2006年には断念。現在では、より患者に優しいプロポフォール(麻酔薬)を用いた検査を導入しています。
イグ・ノーベル賞がもたらした「人生の転機」
受賞は、2006年に論文を発表してから12年後のことでした。堀内医師は、この受賞が「田舎の一介の医師に光が当たった」と語ります。講演の機会が格段に増え、講演料も「教授格」にアップ。以前は研修希望者が駒ヶ根を志望すると不思議がられていましたが、今では大手を振って来てくれるようになったといいます。受賞のタイミングも非常に良かったと振り返ります。当時、日本では大腸がんへの注目が高まっており、堀内医師らが予約不要で検査・ポリープ摘除ができる「駒ヶ根方式」を確立していたことも追い風となりました。さらに、自身の英語力も向上し、国際的な発信力が強化されていたのです。
大腸がん撲滅へ向けた「第一歩」
授賞式での実演はアドリブでしたが、そのおかげで聴衆の興味を引きつけ、その後のマサチューセッツ工科大学でのスピーチでは、自身の研究の意義を深く語ることができました。「これは僕の大腸がん死抑制のための研究の第一歩なのだ」と堀内医師は訴え、その思いは今も変わっていません。彼のユニークな研究と、それが基盤となった「駒ヶ根方式」は、大腸がんの早期発見と治療に貢献し、多くの人々の健康と命を守るための重要なステップとなっています。イグ・ノーベル賞は、単なる笑いだけでなく、科学の進歩と社会貢献への強いメッセージを秘めているのです。
参考文献
- 週刊FLASH 2025年11月4日号





