近年、日本全国でクマによる被害が深刻化する中、特に秋田県では「異常事態」ともいえる人身被害が相次いでいます。10月24日時点で人身被害件数は49件を超え、記録的な数字を更新しています。中でも、同県東成瀬村で発生したクマの襲撃事件は、その凶暴性から地域社会に大きな衝撃を与え、1人の尊い命が失われ、複数の重傷者が出る悲劇となりました。
秋田県で相次ぐクマ被害のイメージ、森林を歩くツキノワグマ
東成瀬村での悲劇:佐々木喜行さん死亡の経緯
10月24日午前11時頃、東成瀬村役場から県警に対し、「クマに襲われている人がいる」との緊急通報が入りました。現場に急行した警察官らが確認したのは、倒れている男女4人とその近くにいたクマの姿でした。被害者らは全員が重傷を負っており、ドクターヘリによって緊急搬送されましたが、現場付近に住んでいた佐々木喜行さん(38)は、顔面損傷による低酸素脳症で搬送先の病院で死亡が確認されました。佐々木さんの顔には、大きく爪でえぐられたような生々しい痕跡が見られたと報じられています。今回の事件により、今年県内でクマによる人身被害での死者は2人目となりました。
村はその後、猟友会の協力を得て、4人を襲ったとみられるクマを駆除しました。駆除されたのはメスのツキノワグマの成獣で、全長約1メートル20センチ、体重約80キロの個体でした。この「殺人グマ」がどのような経緯で人々を襲ったのか、詳しい状況が注目されています。
「人工音を恐れない」凶暴なクマの行動
秋田県横手警察署の佐々木行雄副署長によると、事件の約1時間前、現場から400メートルほど離れた林道脇で、このクマが目撃されていました。目撃者の男性は軽トラックのクラクションを鳴らしましたが、通常であれば音に驚いて逃げるクマが、この個体は逆に車に向かって突進してきたといいます。さらに、クマは車に体当たりし、フロントのフォグランプをもぎ取るという獰猛な行動を見せた後、山へと逃走したと報告されています。副署長は、「クラクションを鳴らしても向かってくるあたり、今までとは違うクマなのかなと思う」と、その異例の行動に驚きを隠しませんでした。
その後、この「人工音を怖がらないクマ」が集落を襲撃。亡くなられた佐々木さんは自宅にいたところ、外から叫び声が聞こえ、母親と共に外に出た際に、すでに倒れている人がいるのを発見したといいます。佐々木さんは母親に家に戻るよう伝え、その後心配した父親も様子を見に出たところで、息子と共に襲われたという流れです。最初に襲われたのは畑の近くにいた夫婦で、発見時には男性3名、女性1名が倒れていました。佐々木さんは発見時すでに意識不明でしたが、他の3名は意識があり、うち1名は会話ができない状態だったとのことです。重傷を負った3名については、すでに適切な処置が施され、容体は安定していると伝えられています。
一般的にクマは臆病で大きな音を苦手とすると言われますが、今回4人を襲ったクマは、その常識を覆すような行動を見せました。村の産業振興課の担当者も「珍しい個体かもしれない」と語る通り、この事件はクマの生態や行動に関する新たな警戒の必要性を示唆しています。





