安倍元首相銃撃事件:山上徹也被告の初公判に伯父が語る「家族の真実と重い責任」

安倍晋三元首相(当時67歳)を銃撃し、殺人や銃刀法違反などの罪に問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判が、事件発生から3年以上を経て28日、奈良地裁でいよいよ幕を開けた。傍聴券を求める人々が長い列をなし、この事件に対する社会の関心の高さが改めて浮き彫りとなっている。本稿では、山上被告の一家を長きにわたり支えてきた伯父で元弁護士の山上東一郎氏(80)が、初公判を前に語った複雑な胸中と思いを詳報する。彼の言葉からは、事件の根底にある家族の深い苦悩と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題の深刻さが浮かび上がる。

初公判への「関心なし」発言の真意

事件から3年以上が経過し、ようやく始まった初公判に対し、山上東一郎氏は「公判前整理手続きに2年9カ月もかかるとは思っていませんでした。ずいぶん時間がかかったな、という印象です」と率直な感想を述べた。しかし、東一郎氏は今回の初公判には傍聴に行かない意向を明かしている。その理由として、「裁判の本番は高等裁判所での二審からだと思っている」ことに加え、「特に声もかかりませんでした」と語った。甥である山上徹也被告が裁判にどう臨むかについては、「自分の人生は自分で責任を取ったらいい」という突き放したような、しかし深い愛情を感じさせる言葉で関心がないと述べた。ただし、もし有期刑が確定し、仮出所することになれば、「助けてくれ」と言われれば「絶対に助ける。それは一族ですから」と、家族としての支援を約束している。

山上徹也被告の伯父である山上東一郎氏が、初公判を前に大阪市内で取材に応じる様子。山上徹也被告の伯父である山上東一郎氏が、初公判を前に大阪市内で取材に応じる様子。

母親の証人出廷と複雑な家族関係

初公判では山上徹也被告の母親が弁護側の証人として出廷すると聞いていると東一郎氏は語る。しかしそのことに対し、「徹也の心情を思うと嫌やろうなと思います」と、被告人の心情を慮る言葉を漏らした。事件後も面会していないであろう母親と法廷で会うことになる状況は、山上被告にとって極めて精神的負担が大きいと推察される。銃撃事件直後、東一郎氏の自宅に呼び寄せられた母親は、見るからにやつれ果てていたという。「どうやって食べていたのかと思ったくらいです」と当時の様子を振り返る。東一郎氏が検察庁に連絡し、自宅で検事が母親から事情聴取を行った際、母親がまず口にしたのは「旧統一教会に申し訳ない」という言葉だった。その後も毎日2階の部屋で経典を開く姿が見られた。

妹が語った「謝罪の不在」

ある時、母親は「安倍元首相の奥さんに謝りたい」と言い残して家を出てしまうことがあった。徹也の妹が必死に探し回り、ようやく電話で母親と連絡が取れたが、母親は依然として「安倍さんのご家族に謝りたい」と繰り返していたという。その際、妹は電話口で強い口調で母親に迫った。「私や徹也に謝ってくれたことは一度もないじゃない」と。この言葉によってようやく、母親は娘である妹に対し謝罪の言葉を述べた。そして、「徹也に謝りたい」とも語ったようだが、東一郎氏は「それは母親の本心からの言葉ではなかったと思います」と見ている。母親が東一郎氏の家にいた時は、安全な場所にいるという安堵を感じているようだったが、結局は旧統一教会へと戻ってしまったのだ。

信仰に「すがりつく」母親の背景と家族への影響

東一郎氏は、母親にとって「信仰が生きがい」であり、「信仰をやめなさい」という言葉は「死になさい」と同義であると説明する。母親の人生は、自身の母親が急性白血病で急死し、その数年後に夫が自殺、さらに徹也の兄である長男が病気を抱えるなど、度重なる悲劇に見舞われてきた。東一郎氏は「よほどつらかったのはよくわかっていますし、そういった状況では何かにすがりつくしかなかったんでしょう」と、母親が信仰に傾倒した背景に理解を示した。しかし、その信仰が山上徹也被告ら家族に過酷な生活を強いたのもまた事実である。「皆さんが思うより、ずっと悲惨ですよ」と、旧統一教会問題が家族にもたらした影響の深刻さを強調した。

山上徹也被告の初公判は、単なる刑事事件の裁判に留まらず、その背景にある旧統一教会問題と、信仰によって引き裂かれた家族の深い悲劇を改めて社会に問いかけるものとなるだろう。伯父・山上東一郎氏の言葉は、事件の複雑さと、一家族が抱える重い葛藤を浮き彫りにしている。今後の裁判の行方が注目される。

参考文献