日本の就職戦線において、理系大学が圧倒的な優位性を持つという認識が一般的です。しかし、その中で文系大学として異彩を放ち、毎年「有名企業400社実就職率ランキング」で上位を維持し続けているのが一橋大学です。この実績は、単なる偶然ではなく、一橋大学の教育とキャリア支援の質の高さ、そして学生たちの意識の変化を鮮明に示しています。
理系優位の中で際立つ一橋大学の躍進
大学通信がまとめた最新の「有名企業400社実就職率ランキング」を見ると、1位の豊田工業大学をはじめ、名古屋工業大学、東京科学大学といった理工系大学が上位を独占しています。その中にあって、一橋大学は堂々の2位に食い込んでいます。同大学は2023年度に「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科」を新設したものの、まだ卒業生を輩出していないため、実質的には依然として“文系大学”としての実績と言えるでしょう。前年から5ポイント上昇の53.4%を記録し、順位を3位から2位へと押し上げました。これは、文系学生の就職が不利という一般的な認識を覆す、顕著な成果です。
一橋大学のキャンパス風景と、多様な業界からの内定獲得を語るキャリア支援担当者
文系不利は過去の話:広がる就職先の多様性
一橋大学キャリア支援室ディレクターの高島佐保子氏は、「ありがたいことに、文系だから就職が不利ということはありません」と語ります。実際、銀行、証券、生命保険、損害保険、コンサルティング会社、外資系金融など、多岐にわたる業界から安定して多くの内定を獲得しています。
大学通信の集計によると、2025年3月卒業予定者の就職先では、三菱UFJ銀行に21人、みずほフィナンシャルグループに20人、三井住友銀行に12人が就職しています。また、EYストラテジー・アンド・コンサルティングに20人、アクセンチュアに11人、アビームコンサルティングに10人といった大手コンサルティングファームへの就職も目立ちます。高島氏は、10年ほど前までは「総合商社、メガバンク」を志望する学生が多かったが、現在は新卒採用に力を入れるコンサルティングファーム、シンクタンク、外資系企業へ就職する学生が増加していると指摘します。「学生からの志望として、幅広いコンサルティング会社の社名が挙がるようになりました。これは10年前にはなかった変化です」と、多様化するキャリアパスを強調しています。
IT・情報通信業界への新たな流れと文系エンジニアの台頭
さらに注目すべきは、情報通信業界への就職が着実に増加している点です。1学年約1000人のうち、2024年度は90人(前年82人)が情報通信業界に就職しました。主な就職先には、NTTデータグループに6人、ドコモグループに8人、楽天グループに6人などが挙げられます。
高島氏によると、「かつてはSE志望が“ちらほら”という程度でしたが、いまは社会学部や経済学部を中心に、IT企業のエンジニアやSEを志望する学生もいます。業界に将来性があると考えているようです」と、学生の意識変化を説明しています。入社後の研修で技術を身につけられる機会が増えたことで、文系学生がIT分野に挑戦しやすくなっていることも背景にあります。また、「IT業界に進む先輩たちが増えて、IT業界が志望企業群に加わり、意識も変わってきています」と、ロールモデルの存在が後輩たちのキャリア選択に影響を与えていることを示唆しています。
一橋大学の就職実績は、文系教育が現代社会の多様なニーズにいかに応え、学生たちが幅広い選択肢の中で自身のキャリアを築いているかを示す好例と言えるでしょう。





